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アルプス山脈の天然クーラーで真夏の納涼体感!まさにそんな一夜のコンサートをサントリーホールで鑑賞した。
当夜のメインの演目は、リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)の大曲、「アルプス交響曲」(1915年作)。大編成といい、ハープやパイプオルガンが登場する共通点といい、先日のサンサーンスの「オルガン付き」に続く、納涼コンサートとなった。
演奏は今、世界で最も勢いに乗る指揮者の一人であるファビオ・ルイージ(b.1959)と、彼が2010年から芸術監督を務めるPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)オーケストラ。PMFは1990年に、最晩年のバーンスタインが提唱した事で知られる札幌を本拠地とする音楽祭。はや四半期近くが過ぎ、環太平洋エリアの若手音楽家の育成を目的とした国際教育音楽祭としてすっかり定着した感がある。この日の演目の全体は以下の通り。

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 op.102
R.シュトラウス:アルプス交響曲 op.64

ファビオ・ルイージ指揮 PMFオーケストラ
デイヴィッド・チャン(Vn)、ラファエル・フィゲロア(Vc)


「アルプス交響曲」の実演に接するのは2回目。1回目は2007年に聴いた下野竜也&読響の公演だったが、CD音源とは違う生演奏ならではのスペクタクルな迫力に圧倒されたものだった。
かたや、ファビオ・ルイージによる指揮姿に接するのは4回目。R.シュトラウスは、シュターツカペレ・ドレスデンの来日公演で交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を聴いた事や、終演後のサイン会で、シュターツカペレ・ドレスデンとレコーディングした「アルプス交響曲」のアルバムに直筆サインももらっただけに、興味はつきなかった。

実際、彼の流麗な指揮ぶりは健在。「日の出」で大地の鼓動が聞こえてくるようなストリングスの、何と壮大なアルプスの眺めだろうか。全体的に旋律をよく歌わせており、いつものR.シュトラウス節が実に新鮮に響いて聴こえた。前半のブラームスの演目でも感じた事だが、彼のタクトの元、ストリングス・セクションは特に鍛えられたに違いない。管弦楽のパレットの豊かさを学ぶにもR.シュトラウスは適役だし、100名をはるかに超える大編成の演目もPMFオケのような形態には適していたと思われる。この日のトランペットは6本、ホルンは9本。各ブラスセクションの難易度の高いソロも危なげなくこなしていた。
期間限定での活動だけに、PMFオケ独自の個性やカラーを持つまでには至っていないが、若さゆえのパッションとバイタリティーが伝わってくる。一流指揮者によるオケの経験だけでなく、各国のメンバーとの交流を図る事で、音楽が共通言語である事を再確認したに違いない。

この日は第一ヴァイオリン・セクションを斜め上から見下ろせる2階席の最前列のS席より鑑賞。指揮者のタクトさばきがきちっと捉えられると共に、オケの響きとサントリーホールの残響の溶け合いを聴くには絶好の位置だった。「夜」に戻り、静かに幕を閉じた後には、熱狂的なブラボーが会場内にこだました。
若い音楽家を応援できる場があるのは何と幸せな事だろう。個々メンバーの明日の活躍に期待したい。