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ギュンター・ヴァントにはこれまでブルックナー指揮者という先入観があった。現に自分が初めて購入したヴァントのディスクはブルックナーだったし、ヴァント晩年の日本公演での盛り上がりにはセルジュ・チェリビダッケやオイゲン・ヨッフムといったブルックナーを得意とした指揮者同様、ある意味神格化されたものがあったように思う。

そんなヴァントのディスクの中でブルックナーとはまた別の一面を見せてくれた録音がケルン放送交響楽団を指揮したシューベルトの「交響曲第5番」劇音楽「ロザムンデ」('84年2月29日録音、WDR、ケルンにて収録、EMI輸入版)のアルバム。

シューベルトの交響曲第5番にはちょっとした思い出が詰まっている。この曲との出会いは中学生の時だっただろうか、当時住んでいた東京杉並区の荻窪にある新星堂本店で敬愛してやまないブルーノ・ワルターのCDを初めて購入したのがシューベルトのアルバムだった。「新ワルター大全集」と題されたシリーズの中の一枚で、演奏はコロンビア交響楽団。カップリングには「未完成」がニューヨーク・フィルとの組み合わせで収められており、ワルターの「未完成」は名盤としても広く知られている。当然、その「未完成」が目当てだったのだが、一聴して気に入ったのは「交響曲第5番」の方だった。長調の作品である事もあって全楽章を通して大変聴きやすく、短調である「未完成」との違いを比較する楽しみもある。コロンビア響とニューヨーク・フィルというワルター晩年の2つのオケの違いも楽しめて、いわば一石二鳥なディスクだった。最近、念願のジョン・マックルーア監修によるCDが復刻されたのはファンとして純粋に喜びたい。

ヴァント盤はワルター盤で感じたシューベルト青春の若々しさに、更に輪をかけた演奏とでもいうのだろうか、一楽章冒頭のフルートとストリングスの掛け合いからしてとても爽やかで瑞々しい。シューベルト1816年、19歳の作品。御年72歳のヴァントがとて若々しくうつる。

カップリングの劇音楽「ロザムンデ」は先週聴いたアマチュア・オーケストラのアンコールでも演奏された曲。有名な「間奏曲第3番」はやはり何度聴いても名曲だ。
ヴァントのディスクは多く所有してはいないが、彼の魅力は何だろうと考えた時、自己主張を前面に出す指揮者というよりは、作曲家の作品メッセージをうまく引き出す指揮者という印象を持った。ブルックナーもシューベルトもその作品性を前面に出した演奏に改めて好感が持てた。

ケルン放送交響楽団というとガリー・ベルティーニとのマーラー全集がまず思い浮かぶが、マーラーのような大編成ものも、今回のシューベルトのような室内楽に近い編成も柔軟性をもって対応でき、且つ高い演奏水準でこなしてしまうのがドイツの放送オケに共通した強みのように思う。先日引退公演を行ったオーボエ奏者、宮本文昭氏は'82年にケルン放送交響楽団の首席奏者に就任していたから、ここで聴かれるオーボエもおそらく宮本文昭氏の音色だろう。きっとこのオケで多くのものを学んだに違いない。

来年の「熱狂の日」のテーマはシューベルト。この曲もきっと演奏される事だろう。


《参照マイブログ》
シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」
春うららかな日に聴きたい一枚~ザ・ナッシュ・アンサンブルの「ます」~