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もしエルガーやヴォーン・ウィリアムズ作品が好きだったり、ストリングスの音色が好きであれば、ぜひ耳を傾けてほしい、そんな作品がある。それは彼らと同じ英国の作曲家、ジェラルド・フィンジ(1901-1956)の「弦楽のためのロマンス(作品11)」という作品。 弦楽合奏のみの演奏による約8分程度の楽曲だが、実に美しい作品。初めて聴いた時、その美しい旋律が心にすっと入ってきて、癒されたとの同時に、クラシックにこんな美しい楽曲があったのか、と驚かされたのを覚えている。
曲はひっそりと静かに始まる。英国の湖上や田園が思い浮かぶような情景はどこかヴォーン・ウィリアムズやディーリアス作品との共通点を感じるし、ストリングスが奏でる旋律や曲展開はどこか、エルガーの「弦楽セレナード」(1892年作)や「二ムロッド」(1899年作)と通じるものを感じる。
この作品は1928年、フィンジが27歳の時の作曲だが、作品として出版されたのは彼が50代に入った1952年だという。名声を成してから青年期の作品が世に出る形となったが、そこには静かな中にもフィンジの秘めた想いや情熱を感じ取ることができる。実際、師と仰ぐヴォーン・ウィリアムズとは親交があったので、彼の影響は大きく受けていたに違いない。この作品を聴くと、気持ちが浄化されるように感じるのは自分だけではないだろう。ストレスを抱えやすい現代の世の中において、この曲は清涼と癒しを与えてくれると思った。以下、こだクラ所有のディスクから4つの音源をエントリーしたい。

■リチャード・ヒコックス指揮 
  シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア *ジャケット画像左上 
  (1999年12月録音、ワトフォード・コロッセウムにて収録、CHANDOS海外盤)


最初に出会った音源で、オール・フィンジプログラムのアルバムに収録。最初にフィンジ作品の素晴らしさを教えてくれた演奏であり、自分にとってのフィンジ作品の一つのスタンダードとなっている。指揮者のリチャード・ヒコックス(1948-2008)が自国の英国作品を積極的に取り上げていた頃のレコーディングで、リリースされた2001年がフィンジの生誕100周年と重なることから、英国発のCHANDOSレーベルならではの意義を感じる。それだけに彼がその後60歳で急逝したのが悔やまれてならない。

■デイヴィッド・ロイド-ジョーンズ指揮
 ロイヤル・バレエ・シンフォニア *ジャケット画像右上
 (2000年3月録音、ニュー・サウスゲート、セント・ポールズ、ロンドンにて収録、NAXOS海外盤)


アルバム「イギリス弦楽小曲集第3集」に収録。上述のヒコックス盤の3ヵ月後に録音されており。やはり2001年にリリースされていることから、2001年のフィンジ生誕100周年とも重なった。指揮者・オーケストラ共に初めて知るアーティストだったが、ストリングスが流麗でよく歌っており、ドラマティックな演奏に仕上がったロマンスで、これが実によかった。デイヴィッド・ロイド-ジョーンズは1934年生まれの英国の指揮者で、主に英国の主要な歌劇場オケを振ってきたキャリアを持つ。その現場経験も、旋律の歌わせ方や音楽の盛り上げ方に活かされているのだろう。ロイヤル・バレエ・シンフォニアは、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の専属オケだけに、オケとの相性もよかったと思われる。録音も素晴らしく、ヒコックス盤とともにマイベスト盤となっている。

■サー・エイドリアン・ボールト指揮
 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 *ジャケット画像右下
 (1977~78年頃録音、Lyrita海外盤)


この作品は1990年代に入るまでに音源はごく限られていたと思われ、それだけに、サー・エイドリアン・ボールト(1889-1983)が1970年代に録音していたのは貴重。レコードを通じ、世の中で最初にこの曲の魅力を教えてくれたのはもしかしたらボールト盤だったのかもしれない。上述の2つに比べるとテンポはゆったりめだが、初演時のような瑞々しい味わいがある。ボールト自身、1920年代に当時20代のフィンジと出会っていた縁もあり、ホルストやヴォーン・ウィリアムズ作品と共にフィンジの作品に対しても良き解釈者だったと思われる。
(参考:youtube

■サー・ネヴィル・マリナー指揮
 アカデミー室内管弦楽団 *ジャケット画像左下
 (1996年6月録音、 ワトフォード・コロッセウムにて収録、PHLIPS海外盤)


1996年に録音。英国を代表する室内オケが満を持してオール・フィンジ・ブログラムを世に送り込んだ意欲作。
アルバムのメインはサー・ネヴィル・マリナー(1924-2016)の息子、アンドリュー・マリナー(b.1954)がソリストを務めた「クラリネット協奏曲」(1949年作)が据えらており、親子共演盤としての話題性が当時大きかったと思われるが、「弦楽のためのロマンス」が収録されていたことが何より嬉しい。後にレコーディングされたヒコックス盤やデイヴィッド・ロイド-ジョーンズ盤にも影響を与えたと思われる音源。アカデミー室内管ならではの美質がうまく発揮されており、マリナーのためのある指揮ぶりもさすがだが、ヒコックス盤とデイヴィッド・ロイド-ジョーンズ盤の存在を知ってしまうと、彼らの方が一枚上手と感じてしまった。
(参考:youtube

クラシックには隠れた名曲・秘曲がまだまだあることを気づかされる。特に本ブログでも以前取り上げたやウィリアム・ボイスチャールズ・ヒューバート・パリージョン・ラターなど、英国作曲家による作品はそのよい例だろう。願わくば、日本でもエルガーやヴォーン・ウィリアムズ、ホルストと並んで、もっとフィンジの作品が演奏されてよいと思った。室内オーケストラにも適しているので、英国作曲家のプログラミングでいつの日か実演を聴いてみたい。


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