クールビズが終わるとようやく秋の気配も近づいてきたように感じる。いよいよ芸術の秋の季節の到来だ。秋といえばJAZZ のイベントも盛ん。地元、横浜ではJAZZ PROMNADEなるジャズ祭りも行われている。
指揮者・ピアニスト・作曲家でありながら、クラシックだけでなく、ジャズ界でもその名を知られるアンドレ・プレヴィン。片や指揮者・ピアニストとしてクラシック界でどちらも揺るぎない不動の地位を保っている天性のアーティスト、ダニエル・バレンボイム。
偶然にも彼らは共にアメリカの生んだジャズ・ミュージシャン、「デューク・エリントン」の生誕100年記念のトリビュート・アルバムを残している。エリントンといえば何といってもまずは「A列車で行こう」だろう。
多くのアーティストによって愛奏されるエリントン作品。今宵は彼らのジャズ演奏にスポットをあてて聴いてみたい。
○アンドレ・プレヴィン盤(画像左)
共演:デイヴィッド・フィンク(ダブル・ベース)
(1999年8月録音、セイジ・オザワホール、タングルウッドにて収録、
ドイツ・グラモフォン輸入盤)
《収録曲》
①A列車で行こう
②イスファハン
③アイ・ガット・イット・バッド・アンド・ザット・エイント・グッド
④私が言うまで何もしないで
⑤チェルシー・ブリッジ
⑥昔はよかったね
⑦イン・ナ・センチメンタル・ムード
⑧スクォッティ・ロー
⑨カム・サンデイ
⑩セレナーデ・トゥ・スウェーデン
⑪アイ・ディドゥント・ノウ・アバウト・ユー
⑫イン・ナ・メロウ・トーン
⑬スウィングしなけりゃ意味がない
ピアノとベースだけのサウンドって何て心地良いんだろう、とまず思わせてくれる演奏。
まず、ベーゼンドルファー・インペリアルのピアノの木質な響きがベースの音と実にマッチしている。会場はボストン郊外のタングルウッドにある、残響効果が万全に配された、その名も小澤征爾の名を冠したセイジ・オザワホール(1994年オープン)。つまりは全くのアコースティックな環境で構築されたジャズ・サウンドなのだ。
プレヴィンのジャズ録音はデジタル期に入ってからは、テラーク・レーベルに多くを残しているが、ここではクラシック専門のドイツ・グラモフォンによるアコースティック収録、という点にも興味がわく。ホールの残響が適度にブレンドされ、ジャズ特有のスタジオ録音にありがちな人工っぽさはない。
よく知られた①⑥⑦⑬以外の曲にもプレヴィンは積極的にスポットを当て、それをピアノとベースだけでエリントン作品の持つJAZZYな側面を見事に引き出している。
②⑧は初めて聴いても親しめる作品だし、③のピアノのソロからはプレヴィンの長年のジャズ・ピアニストとしてのキャリアがうかがえる(録音当時、既に70歳の高齢に達している)。
ベースのデイヴィッド・フィンクとの呼吸もばっちりで、ベース音がアドリブ・ソロをたっぷりと聴かせてくれる⑫、ピアノと共に縦横無尽に駆け巡る⑬は聴き所だろう。
オーディオ的にはQUADスピーカーの左側から弦を弾くダブル・ベースの音が、まるで奏者の息遣いと共に聴こえてきそうで、実にスリリングで楽しめる。
セッション録音の前には同ホールでおそらくライブ演奏が行われたと思うが、きっと盛り上がったに違いない。ボストンやニューヨーカーの避暑地であるタングルウッドで聴くジャズ。極上のひと時だろうなあ(^^)
デヴィッド・フィンクとは相性が良かったのか、2年前の1997年に収録した「ガーシュウィン・アルバム」もある。
○ダニエル・バレンボイム盤(画像右)
共演:シカゴ響メンバー他
(1998~1999年録音、シカゴ・パリにて収録、TELDEC輸入盤)
《収録曲》
①ドゥ・ナッシング・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー
②サテン・ドール
③ソフィスティケイテッド・レディ
④キャラバン
⑤ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニモア
⑥アズール
⑦スカッティ・ロー
⑧プレリュード・トゥ・ア・キス
⑨ムード・インディゴ/パープル・ガゼル
⑩チェルシー・ブリッジ
⑪スター・クロスト・ラヴァーズ
⑫木曜組曲~ズウィート・ザーズデイ
⑬A列車で行こう
⑭イン・ア・センチメンタル・ムード
⑮ファースト&フューリアス
あのバレンボイムがジャズを(?)という事にまず驚き。当時、1991年にシカゴ響の音楽監督に就任して8年目の在任期。バレンボイムのジャズ・アルバム進出はシカゴでの在任期に影響を受けてのものか、レコード会社のエリントンの生誕100年というプロモーションの一貫に相乗りしたのかは分からないが、とにかくジャズ・ピアノのバレンボイムとしての出演に許可をしたのは事実だ。
ここではシカゴ響の金管メンバーの強力なサポートを得ている事もポイント。
例えばトランペットのジョン・ハグストロム。アドルフ・ハーセスが退団した今、ハーセス・シートを射止めたクリストファー・マーティンと共にシカゴ響のブラスセクションの要職を担う一人だ。
そして、ホルンのデイル・クレヴェンジャー。アドルフ・ハーセスと共に当時のシカゴ響のブラス・セクションを支えた名奏者。クラシックだけでなく、ジャズにおいても筋肉質なシカゴ響ブラス・セクションのイメージはそのまま。「A列車で行こう」等はジャズ・パワー全開!という感じで微笑ましい。
②③④⑨⑬のような有名曲の収録がプレヴィン盤以上に豊富なのが嬉しい。③⑥⑩では、女性ジャズ・シンガーの大御所、ダイアン・リーヴスが実に渋い歌声を披露してくれている。他にジャズ・クラリネットのドン・バイロンが参加している事も大きな売りだ。
多くの共演者の強力なサポートを得て、バレンボイムも一流の演奏を聴かせてくれてはいるが、ジャズのセンスにかけてははプレヴィンがそのキャリアからしても、やはり一歩上手のようだ。
音楽には垣根がない事を改めて感じさせてくれる両アルバムだった。