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最近、とても素敵なトランペットソロアルバムに出会うことができた。アルバムのタイトルは「風の音~KAZENONE~」。演奏するのは金管アンサンブルや吹奏楽、指導者として活躍されているトランペット奏者の齊藤舞子さん。齊藤さんの演奏に出会ったきっかけは、2年ほど前にTwitterで公開されていた動画だった。NHKの朝ドラ「風笛~あすかのテーマ~」を河川敷で伸びやかに吹き上げる音色に魅了され、それ以来、フォロワーに。その後も多くの動画がアップされるたびに注目をしていたが、今回、全6曲収録のミニアルバムが10月31日にリリース、ご本人の通販サイトで発売が開始された。通常版と演奏家支援版(ポストカード2枚が同封)の内、演奏家支援盤を購入した。収録曲は以下の通り。


1.赤とんぼ(作詞 三木露風 作曲 山田耕作 編曲 内田悦子)
2. しゃぼん玉(作詞 野口雨情 作曲 中山晋平 編曲 宮川彬良) 
3.朧月夜(作詞 高野辰之 作曲 岡野貞一 編曲 星出和宏)
4.てぃんさぐぬ花(沖縄民謡 編曲 直江香世子)
5.夏は来ぬ(作詞 佐佐木信綱 作曲 小山作之助 編曲 渋谷絵梨香)
6.夕焼け小焼け(作詞 中村雨紅 作曲 草川信 編曲 直江香世子)

トランペット:齊藤舞子 ピアノ:三浦はるか
(2020年10月9日録音、取手市民会館にて収録、国内盤)


聴く度に優しい気持ちになれる、心温まる演奏に感動。動画の頃から抱いていた印象と同様、CDから流れる齊藤さんの伸びやかなトランペットの音色に改めて聴き惚れてしまった。唱歌や童謡等、郷愁がテーマとなったカバーアルバム。大人になって、日々の忙しさでどこか忘れかけた日本のうたの良さや、家族や故郷を想う気持ちの大切さを気づかせてくれたような気がした。
自分自身、大学時代に合唱団で「赤とんぼ」や「七つの子」「故郷」といった童謡や唱歌を歌った経験があるが、ここで大切なのはどれだけ歌に心を込められるか、という点。特に楽器だけで童謡や唱歌の世界を表現するのはより難易度が高いはずだが、齊藤さんが奏でるトランペットからは、歌詞が聴こえてくるような、実に歌心に溢れた演奏を感じることができた。

1曲目の「赤とんぼ」からほろっときてしまう。ライナーノーツによれば元はクラリネットとピアノの編曲作品だが、トランペットの温もりのある音に引き付けられる。2曲目の「しゃぼん玉」は宮川彬良さんのピアノソロの編曲作品を、齊藤さんとピアニストの三浦はるかさんがトランペット・ピアノデュオに編曲。幼い頃にしゃぼん玉をした記憶が蘇るような懐かしさを覚える。「朧月夜」はミュート演奏で開始されるどこか幻想的な冒頭シーンや中間部のドラマティックな盛り上がりが聴きどころ。「てぃんさぐぬ花」は作編曲家の直江香世子さんがトランペットとピアノのために編曲を行った委嘱作品。まるでトランペットためのオリジナル作品と思うほど原曲との一体感があった。一方、「夏は来ぬ」は本アルバムで唯一フリューゲルホルンによる演奏。フリューゲルホルンならではのまろやかな音色がこの曲の持つ雰囲気ととてもよく調和している。そして「夕焼け小焼け」は「てぃんさぐぬ花」と同様、直江香世子さんの編曲による委嘱作品。原曲の良さを活かしながら、夕焼けの空にドラマティック且つ雄大に響き渡るトランペットソロが実に素晴らしく、印象に残った。

今回のアルバムを聴いて、個人的にふと思い浮かんだのは敬愛するピアニスト、和泉宏隆さんが2003年にリリースしたソロピアノ唱歌集のアルバム「A Timeless Road/時のないみち」だった。各々のアルバムの内、「赤とんぼ」と「夏は来ぬ」の2曲が共通の収録曲だったので、各々の演奏を聴く楽しみが拡がりそうだ。"アーティストとして最も表現したいと願ったものは、日本の心に根差した自分"と語る和泉さんのライナーノーツと、今回齊藤さんがアルバムに込めた想いにどこか共通点を感じた。

また、今回のアルバムがCDというのも良かった。詳細なライナーノーツに加え、アーティストと自然の風景が素敵なアングルで収められており(さらに演奏家支援板には写真やイラスト付きのポストカードも!)、まさに「風の音」そのものがCDパッケージにぎゅっと詰まったものとなっている。

これまで、音源や実演を通じてたくさんのトランペット奏者の演奏を聴いてきたが、これほどまでに優しく心に鳴り響くトランペットの音色に出会ったことはなかったような気がする。自分自身、吹奏楽に打ち込んでいた高校時代に齊藤さんの演奏に出会っていたら、こんな風に吹きたい、と思う理想の音になっていたことだろう。実は、意外な接点があることが分かり、齊藤さんは自分の母校である都立西高校の吹奏楽部でトランペットパートの指導をされているとのこと!驚きと共に、縁を感じて嬉しく思った。高校時代にはプロの先生に教わる機会がなかっただけに現役の後輩達が羨ましい。そんな後輩達にもこのアルバムは是非聴いて欲しいし、昨今のコロナ禍での不自由な環境や日々の生活にどこか不安や寂しさを感じる方がいれば、是非お勧めしたい。そっと寄り添ってくれる、そんなアルバムになるだろう。今後も齊藤さんの活動に注目すると共に、聴き手の一人として応援していきたい。

(参考)
アルバム「風の音~KAZENONE~」サンプル
YouTube公式チャンネル