大好きなヴァイオリン協奏曲が原曲となっているバッハのピアノ協奏曲(元はチェンバロ用の曲)を聴きたいと思って購入した1枚。既にマレイ・ぺライア&アカデミー室内管弦楽団の弾き振り盤を所有していたが、本家ネヴィル・マリナーが同オケを指揮している点にも今回は注目。
演奏しているロシア出身のアンドレイ・ガヴリーロフ(b.1955)は、今回初めてディスクを通じて聴くピアニスト。1974年の第5回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門に、当時若干19歳ながら優勝したという経歴に驚かされる。当時、第2位に、現在は指揮者として活躍しているチョン・ミュンフン(b.1953)、第4位にアンドラーシュ・シフ(b.1953)がランク・インしていた年でもあった。
収録曲は以下の通り。
○ピアノ協奏曲第3番ニ長調(BWV1054:ヴァイオリン協奏曲第2番の編曲)
○ピアノ協奏曲第6番ヘ長調(BWV1057:ブランデンブルク協奏曲第4番の編曲)
○ピアノ協奏曲第7番ト短調(BWV1058:ヴァイオリン協奏曲第1番の編曲)
○フランス組曲第5番ト長調(BWV816)
('84~86年録音、EMI輸入盤)
ヴァイオリン協奏曲が原曲となっている第3番と第7番は、テンポ感や愉悦感といった面では、弾き振りのペライア盤に軍配を上げたいが、第7番の2楽章は、冒頭から低弦中心のストリングスがずっしりと鳴っており、その深みといい、聴きこむ程に味わいがあるガヴリーロフ盤が好みだ。この辺り、マリナーの好サポートが引き立っている。
しかし、このガヴリーロフの真骨頂は「フランス組曲第5番」にあった。一曲目「アルマンド」のソフトなタッチや、終曲「ジーグ」の活き活きとした明快なタッチに、協奏曲とはまた違う、ガヴリーロフならではの快活さが感じとれて面白い。'90年代になって、ガヴリーロフはフランス組曲全曲をグラモフォンレーベルに再録しているだけに、本人にとってもライフワーク的な位置付けの曲なのだろう。以前エントリーしたイングリット・ヘブラー盤との比較の意味合いでも興味深い。
モダン・ピアノの多彩な表現を感じると共に、「フランス組曲」が改めて好きになる一枚。