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昨秋、アンパンマンの作者、やなせたかし氏が亡くなった。享年94歳。アニメ「それいけ!アンパンマン」が大ヒットした当時、既に69歳という遅咲きだったが、自分の顔(アンパン)と引換えに、人々に勇気と希望を与えるヒーローは、戦争を体験した作者だったからこそ生まれたキャラクターだったのだろう。自分自身、アンパンマンは絵本を通じて知ったキャラクターだが、今やアニメ版が当たり前の時代となっており、知名度ではドラえもんと並ぶか、もしかしたらそれ以上かもしれない。アンパンマンといえば「アンパンマンのマーチ」や「アンパンマンたいそう」、「勇気りんりん」がお馴染みだが、今やアニメのオリジナル曲だけでなく、オケ版までが存在する。チェコの名門オケ、チェコ・フィルを起用したアルバム『それいけ!アンパンマン アンパンマン・クラシックス』(ドボルザーク・ホールにて収録、VAP国内盤)はそんな一枚。個人的には、あの残響豊かなドボルザーク・ホールの空間でアンパンマンワールドを堪能できるわけで、これほど贅沢な事はない。収録曲は以下の通り。

①アンパンマンのマーチ(クラシックバージョン)
②アンパンマンたいそう(クラシックバージョン)
③サンサンたいそう(クラシックバージョン)
④いくぞ!ばいきんまん(クラシックバージョン)
⑤おなじみしょくぱんまん(クラシックバージョン)
⑥とべ!カレーパンマン(クラシックバージョン)
⑦パンナのパンチ(クラシックバージョン)
⑧ぼくらはヒーロー(クラシックバージョン)
⑨すすめ!アンパンマン号(クラシックバージョン)
⑩私はドキンちゃん(クラシックバージョン)
⑪アンパンマン音頭(クラシックバージョン)
⑫勇気りんりん(クラシックバージョン)

マリオ・クレメンス指揮
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団


アレンジは全体的にシンフォニック且つファンタジーに富んだ仕上がり。原曲の持ち味を損なわず、子供の夢を大切にしている姿勢が伺われる。アレンジャーの野見祐二氏(b.1958)はプロフィールによると、坂本龍一氏の名作「ラストエンペラー」のオーケストレーションを手掛ける等、実力派の作曲家・アレンジャー。
例えば、「アンパンマンのマーチ」はトランペットによるファンファーレを挿入したオープニングが勇壮さを醸し出しているし、「アンパンマンたいそう」は原曲とは一転、バラード風で、夕焼けの日差しを浴びながら、「アンパンマンは、きみっさ~♪」と口ずさんでいるかのよう。また、「勇気りんりん」は3拍子のワルツ形式による豪華絢爛な仕上がりで、まるで舞踏会に誘われたかのよう。どこか、ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」の「ワルツ」に通じるようなテイストがある。全体を通じ、チェコ・フィルの強みとする瑞々しいストリングスや、滑らかなブラスセクションが存分に鳴っており充分に楽しめた。録音ディレクター・エンジニアは現在オクタヴィアレーベルの代表の江崎友淑氏が担当。これまでキャニオンレーベル時代からチェコ・フィルと関わっていただけに高品位な音が楽しめる。指揮を努めるマリオ・クレメンスは、宮崎アニメの代表作の一つ、「もののけ姫」のサントラでもチェコ・フィルと共演しており、映画音楽に精通しているという。
ロンドン響ロンドン・フィルロイヤル・フィルといった英国オケと異なり、チェコ・フィルはハートフルなテイストの音楽にはぴったりなオケかもしれない。
聴き慣れたアンパンマンの音楽が新鮮に蘇り、新たな発見があるオーケストラサウンドを是非オススメしたい。

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