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ここ数日合唱や室内オケによる編成の作品が続いたせいもあり、フルオーケストラ編成の曲を聴きたくなってきた。今宵はワーグナー作品でワーグナーと縁の深いシュターツカペレ・ドレスデンのサウンドが堪能できる一枚、『ワーグナー・イン・ドレスデン』を。('84年12月17~21日録音、聖ルカ教会にて収録、CBSソニー国内盤)

指揮は当時カペレの常任指揮者を務めていた日本を代表する若杉弘氏。現在ではウィーン国立歌劇場の小澤征爾氏の話題がよく取り上げられるが、当時の若杉にとっても大変名誉あるポストだったに違いない。

CBSソニーによる制作だが、実際はドイツ・シャルプラッテンレーベルとの共同制作となっている。統一ドイツになる前の時代である事を伺わせる。
収録会場である聖ルカ教会はドイツ・シャルプラッテンやデノンの録音スタジオとしても常連の、教会トーンの素晴らしい残響を持った会場だ。

収録曲はドレスデンに縁の深い下記の作品。

①歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
②歌劇「タンホイザー」序曲
③歌劇「リエンツィ」序曲
④歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
⑤歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲

お気に入りのワーグナー作品の一つ「タンホイザー」序曲。ここでまずカペレのブラスセクションの威力を思い知らされる。有名な「巡礼の合唱」。ホルンとトロンボーンのソリが夕映えの空を舞う鳥のように、実に雄大な演奏を展開する。ワーグナーの金管楽器の長けた作曲技法に改めて敬服してしまう。有名な「ローエングリン」第3幕への前奏曲のトロンボーン・トランペット・チューバのソリも実に巧い。
一方、「ローエングリン」第1幕への前奏曲ではストリングスパートの繊細な響きも味わえる。よく「いぶし銀」と表されるシュターツカペレ・サウンドだが、ライナーノーツにある「木綿の手ざわりの響き」という若杉氏自身のコメントが、見事にそれを裏付けている。

当時のCBSソニーは、若杉弘氏や前橋汀子氏に代表される日本人アーティストが外国のオケと多くの録音を残していた時期でもあった。今振り返ればバブル期に向かう頃でもあり、いい時代だったように思う。何より、このアルバムが若杉の当時50歳の誕生日を記念したバースデーアルバムになっている事もそれを物語っている。

世界でも最も歴史の長い伝統のオケを讃えてという事だろうか、最近このシュターツカペレ・ドレスデンが世界遺産に指定されたのもうなずける。

日本人がドイツのオケを振って録音したワーグナー。80年代初期のシュターツカペレサウンドを記録した、貴重な遺産になるに違いない。