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シカゴ交響楽団及びベルリン・フィルの2大名門オケで活躍したオーボエの名奏者、レイ・スティル(1920- 2014)とローター・コッホ(1935-2003)によるアルバムを。彼らをエントリーしようと思ったきっかけは二人のキャリア上の2つの共通点。一つ目は、レイ・スティルは1953年から1994年まで41年間シカゴ響に在任、ローター・コッホは1957年から1991年まで34年間ベルリン・フィルに在任しており、二人の年齢差は15もあるものの、1950年代から1990年代のほぼ同期間に、各々の名門オケを支えてきた。この時代、ベルリン・フィルにはヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)、シカゴ響には主にゲオルグ・ショルティ(1912-1997)が指揮者として共に黄金期を築き上げていた時期でもある。二つ目の共通点は、そんな彼らがオーボエ協奏曲の名曲として知られるマルチェッロとR.シュトラウスの作品を共にレコーディングしていた点。特にレイ・スティルがロンドンの室内オケとVirginレーベルにレコーディングを行っていたのは意外で、ある意味レア音源といえるだろう。各々の印象を綴っておきたい。

①マルチェッロ:オーボエ協奏曲ハ短調

■レイ・スティル(オーボエ) リチャード・スタンプ指揮 アカデミー・オブ・ロンドン
 (1988年8月録音、ヘンリー・ウッド・ホールにて収録、Virgin海外盤)
■ローター・コッホ(オーボエ) ベルリン弦楽合奏団
 (1974年12月録音、テルデック・スタジオ、ベルリンにて収録、RCA国内盤)


映画「ベニスの愛」でも使用された曲として有名なオーボエの名曲。映画で用いられた叙情的な2楽章はもちろんだが、縦横無尽に駆け巡るアレグロの3楽章は個人的にもお気に入り。
レイ・スティル盤(ジャケット画像:左上)は、どこか素朴な味わい。ソリスティックな妙技を披露するというよりは、オーソドックスな演奏をじっくりと聴かせてくれる。録音当時68歳という年齢も演奏に反映しているのかもしれない。

一方、ローター・コッホ盤(ジャケット画像:右上)は録音当時39歳の油の乗った演奏で、随所に即興的なアドリブを効かせたソリスティックな妙技を聴かせる点でレイ・スティル盤とは対照的な演奏。今でこそベルリン・フィルの様々な奏者がソロ・アルバムをリリースしているが、ソリスト集団の伝統はローター・コッホ時代から続いていたことを窺わせる。どこか木質な味わいのあるコッホの音も良い。楽器の特性もあるだろうが、太く厚みのある音はジャーマンらしさを感じさせるし、プレーヤーならではの個性も反映されているのだろう。全体としてはコッホ盤が好みだった。

②R.シュトラウス:オーボエ協奏曲ニ長調

■レイ・スティル(オーボエ)
リチャード・スタンプ指揮 アカデミー・オブ・ロンドン
 (1988年4月録音、アビー・ロード・スタジオニテ収録、Virgin海外盤)
■ローター・コッホ(オーボエ) 
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1969年録音、ドイツ・グラモフォン海外盤)


そもそも、この曲を知ったきっかけはこのローター・コッホ盤(アルバム「MASTER of THE OBOEに収録、ジャケット画像下」で、R,シュトラウスの作品にこんな素晴らしいオーボエ協奏曲があったのか、と教えてくれた音源だった。オーボエが紡ぎ出す、澄み切った流麗な旋律が実に心地よく、この曲がオーボエ奏者にとっての重要なレパートリーの一つである事を教えてくれる。コッホ34歳時の若かりし頃の録音。コッホにとっても18番のレパートリーだったに違いない。
一方のレイ・スティル盤はマルチェッロと同様、録音当時68歳のもの。フリッツ・ライナー時代からシカゴ響とは共演歴も多かったのだろう、上記のマルチェッロよりも闊達な、活き活きとした演奏を繰り広げているのが窺える。伴奏を努めるアカデミー・オブ・ロンドンは本録音の2年前の1986年にこの曲を演奏し、ロンドン・デビューを飾ったようだ。伴奏がシカゴ響ではないだけに、オケの巧さではベルリン・フィルと共演しているコッホ盤には及ばないが、シカゴ響と共に築き上げてきたオーボエ奏者としての年輪を感じさせる。

その後、レイ・スティルは94歳まで存命、ローター・コッホは67歳で亡くなってしまったのが惜しまれる。後世に残してくれた二人の貴重なドキュメントがここにはあった。