ショートストーリー「夜行列車に乗って」 | 手ぶloveの「諸行無常のソナタ」

手ぶloveの「諸行無常のソナタ」

アル中地獄からの解脱と共に解き放たれた世界。
色即是空のことばたちが
縦横無尽に駆け巡る。哀愁の人間讃歌。手ぶらワールドへ
ようこそ!

「夜行列車に乗って」

作.手ぶlove





死神はある男の元へ向かっていた。



死者の魂を運ぶ列車に男の魂を乗せる為だ。



名簿によれば、男は今晩、首を吊って死ぬ予定だ。



死神は男の住むアパートの前に列車を停めて

男を迎えに行った。





男はこたつに入ってミカンを食べながら考えていた。




「あの女には参ったな。

全財産奪われた上に借金まで負わされて…

しかしまぁ、すっきりしていいじゃない。

シンプルイズベスト的な。

おかげで毎日、馬車馬みたいに働いて

すっかり健康体になっちまったよ。

借金サマサマだ!ハッハ!」





死神はその様子を伺い呆れた。


「ポジティブかよ!!」




死ぬ気配のない男に死神は痺れを切らして男に話しかけた。




「オイ!君!

自分を偽るのはよせ。

死にたいんだろ?

君の気持ちは痛いほど分かる

惨めで、情けなくて、ぶざまで…

さぁ、楽になるんだ…

さぁ、早く…」





「なっ、誰だよ!?アンタ!」


びっくりした男は恐怖のあまり、

とっさに死神を一本背負いで投げ飛ばした。

それから、マウントしたまま

両拳で死神の顔面を殴打した。




意表を突かれた死神はマシンガンの如き殴打から逃れるべく、海老反りに体をバウンドさせて男を横転させた。


そこからすかさず首を絞めに入る。

死神の腕が男の首に鮮やかに極り

男のこめかみから、今にも破れんばかりの勢いで

血管が浮き出る。


男は堪らず何度もタップしたが

死神は容赦なく腕をロックしたままだ。




「何だ?コレ?

この男…

オレの腕で首を吊ったってのか?

てか、オレ首絞めてる!?

バカな!!」




死神は数知れない魂を請け負って来たが

こんな総合格闘技のようなケースは初めてだった。




「神よ!何ですか?コレ!!」





死神はチョークスリーパーを極めたまま、

こたつの上のミカンを見つめると

まんじりともせず

ふとニーチェの言葉を思い出した。






「神は死んだ」








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楽曲「拝啓トーベンクールマン」手ぶlove