1 相手を強く非難する依頼者

 依頼者は,時に相手方を激しく批判したり,なじったりします。「徹底的にやっつけてやってください」と言われることも少なくありません。

 我慢できない気持はよく分かります。うそ偽りのない正直な感情ですから,それを受け止めることが必要であり,決して否定してはなりません。

 

 しかし,依頼者の感情は一体いつまで続くでしょうか。人間の感情は続かないものです。

怒りも,ねたみも,喜びも,悲しみもすべての感情は変化していきます。そのことを知っておかないと,適切な弁護はできません。

 

2 トラブルは身近な人との間で起きるもの

 そもそもトラブルというものは,家族,親戚,友人,知人,勤め先との間で起きるものです。会社なら,取引先や顧客,従業員との間など,何らかの人間関係のある人同士の間で紛争が発生します。交通事故のような場合もありますが,多くありません。

 

3 人間関係は将来も続く

 トラブルの相手方との人間関係は将来も続いていく場合が多いのです。ですから,できるかぎり円満に解決するのが望ましいのです。

 また,どんなに激しく相手を罵倒していたとしても,その感情はやがて変わっていきます。

後味の悪い終わり方はしたくない,できれば紛争を円満に解決したい,互いに気持ちよい終わり方をしたいという気持になることも少なくないのです。

 

4 和解を目指す

 そのように考えると我々が目指すべきは和解による解決になります。和解とは,双方が互いの主張を譲り合い合意によって解決するものです。実際に訴訟になっても多くの事件は和解で解決しています。

 今は激しく争っていたとしても,最後,和解で終わる可能性が高いのですから,弁護士はそのことを踏まえて訴訟を進めていくことが必要です。

 

5 弁護士の作る書面

 示談交渉にしても訴訟にしても,納得に至るためのプロセスであることは以前に書きました。

ところが,弁護士が書く書面で,ことさら相手の感情を逆なでするような内容になっていることがあります。

 

 そんな書面を互いに出し合っていると負の感情がどんどんエスカレートしていくことになります。弁護士が紛争をあおるようなことがあってはなりません。何らかのボタンの掛け違いで紛争になってしまったのですが,最後はお互いに納得して和解で終わることを目指しましょう。

 依頼者の感情をしっかりと吸収した上で,書面にするときは,できるだけ感情的な表現を使わず,相手方に敬意をもって対応する必要があります。