1 相談者が求めているもの  

 相談者がもとめているのは,法的知識や法的アドバイスだと思っている弁護士が少なくありません。それは表面的な見方であり,相談者が弁護士に求めている価値は,「納得」です。

 どうすれば納得を提供できるのでしょうか。正しい知識を提供したり,正しい法的アドバイスを提供しても,それだけでは納得はされません。

 

 まず,大切なことは,「この人は私のことを理解してくれている」という実感です。「この人は私の味方である」という信頼です。

 「まったく私のことを分かってくれていない」と思われたならば,何を言っても心には入っていきません。

 

2 私はあなたの味方です

 「私の味方だ」と感じてもらうにはどうすればよいでしょうか。まずは,じっくりと話を聞くことです。相談に来られる人は,順序立てて話ができる人ばかりではありません。緊張もしていますし,記憶も混乱しています。同じことを繰り返す人もあります。そんなとき,ついつい「さっきも聞きましたよ」と話をさえぎってしまいがちですが,まずは,同じ話でも頷いて聞くことです。

 

 「大変,腹が立ったんです」と言われたならば,「大変,腹が立ったんですね」と応じます。「殺してやりたいと思いました」と言われたら「殺してやりたいと思われたんですね」と言います。言われた内容に同意したのではありません。受容するのです。

 

 そのように話を続けていくと,感情的な高ぶりも治まってきますし,「この人は私のことを分かってくれている」と思ってもらえます。その上で,法律的なアドバイスをすれば,仮にその内容がご本人の意に添わないものであったとしても,納得してもらうことができます。

 

3 依頼を受けたら

 依頼を受けたならば,手続の進行は納得へのプロセスであると自覚しなければなりません。「裁判で勝てば納得してもらえる」というのは大きな誤解です。

 弁護士は,判決や和解の結果に拘りすぎています。弁護士の成功報酬にも関わりますから,結果も大事かも知れません。しかし,私たちが提供すべき価値は納得であることを忘れないようにします。

 

4 弁護士の舞台

 弁護士の舞台はどこにあるかと聞かれた場合,「裁判所の法廷が舞台である」と答える人が多いと思います。法廷で行われる証人尋問によって判決が左右されるからです。したがって,尋問のための打合せの場は,舞台裏あるいは楽屋ということになります。

 

 しかし,「納得の提供」という視点で考えると,依頼者との打合せこそが弁護士の舞台になります。依頼者と直接やりとりして,依頼者に共感し,証拠を整理して事案を解明し,こちらに有利な点,不利な点を依頼者と共有していきます。

 

 判決などの結果を重視しすぎると裁判の勝ち負けに関わる重要な事実(要件事実)にのみ関心が向き,それ以外のことを依頼者が話そうとしても,聞こうとしなくなってしまいます。「その話は事件と関係ありません」という言葉を使いがちですが,気をつけなければなりません。

依頼者と向き合う姿勢を積み重ねることが納得に到達するプロセスになります。