1 高齢者の財産管理
 多くの高齢者が振り込め詐欺の被害に遭っており,昨年の被害総額は300億円と発表されています。高齢者の財産を守るための制度としては,成年後見があります。
 ところが,制度が使いにくいと言われ,あまり利用されていません。

2 成年後見制度
 認知症などによって判断能力が低下した場合に,親族の申立によって家庭裁判所が後見開始の審判を行い,後見人を選任します。
 

 申立をする際に,後見人の候補を推薦することはできますが,裁判所は必ず「家族の意見を聞きます。全員が賛成すれば、推薦のとおり後見人が選任されますが,一人でも反対の人があると,裁判所は第三者の後見人を選びます。多くの場合,弁護士などの専門職が選ばれます。その場合,後見人の報酬が高くなりますし,後見人の方針によって,財産管理がかなり厳格になったりもします。

3 任意後見契約
 元気なうちに,信頼できる人をあらかじめ後見人に選んでおくという方法が,任意後見契約です。後見人予定者と契約を結び,将来,判断能力がなくなった時に後見人となって財産管理等をしてもらうというものです。


 判断能力がなくなったと判断すると裁判所は任意後見人を監督する任意後見監督人を選びます。少し複雑ですが,判断能力が失われた人の財産を任意後見人が管理し,その任意後見人を任意後見監督人が監督するという制度です。任意後見監督人は,弁護士などの専門職が就任することが一般的です。
 

 任意後見契約には,(1) 判断能力が失われた時点から始まるものと,(2) その前から財産管理を任せておき,判断能力がなくなった時点で任意後見に切り替わるものと二通りがあります。
 任意後見契約では,自分で後見人を選べるというメリットは大きいのですが,任意後見監督人が必ず選ばれることになっており,任意後見監督人の報酬がかかってしまうために,利用者はあまり多くありません。
 
4 家族信託
 最近,増えているのが家族信託です。信託契約を結び,財産の名義を受託者に移して,受託者が信託契約に従って管理していくというものです。信託契約はかなり柔軟性があり,色々なニーズに応えることができますが,不動産の所有権移転登記などかなり大がかりなものとなり,登記費用もかかってしまいます。
 
4 財産管理委任契約
 そこで,お勧めするのが財産管理委任契約です。
 財産管理委任契約は,信頼できる人(受任者)に対し,具体的な財産の管理や法律行為などを委任し,それに必要な代理権を与えるというものです。判断能力が衰える前に,公正証書によって契約し,早めに財産管理を委任します。委任する相手として、信頼できる人を選んで,その人を受任者として契約を結びます。
 契約の中で,「孫が成人するまでの間,毎年1月にお年玉として2万円を渡す」などと決めておくこともできます。


 任意後見契約と異なり,将来,判断能力が失われた場合でも財産管理契約は終了せず,後見人を選任しない点に特徴があります。後見監督人や家庭裁判所の監督を受けませんし,それらに必要な報酬も発生しません。通常の財産管理や施設との契約締結など委任事項をしっかりと定めておけば,後見人とほぼ同様の権限を有することとなります。
 

 しかし,裁判所が関与しないことから,受任者が財産を横領したり着服したりしないか心配される人もあると思います。財産管理委任契約では半年に1回とか1年に1回というように一定期間ごとに財産の管理状況を報告することを定めますが,報告先として本人に加えて法定相続人全員であるとか弁護士を指定しておくことができます。


 本人の判断能力が失われたとしても,報告先として指定された人が内容を監督できますし,報告先を複数にしておけば,多数の目で監督することができます。もしも,疑問があれば説明を求め,財産管理の状態が不適切であれば,正式に後見申立をして,財産管理委任契約を解除することもできます。
 

 なお,受任者は,銀行預金の払い出しや老人ホームの契約などはできますが,不動産の売買はできませんので,不動産の売買が必要となった場合には後見開始の申立てが必要となります。
 この財産管理委任契約は後見制度の短所をカバーするものとして,今後,利用が増えていくものと思います。
 

※追記 財産管理委任契約は公正証書として作成しますが,ほとんどの公証人はまだ経験がないと思います。判断能力が失われたら契約が終了するという契約しか作成したことがないので,よく説明をして理解してもらう必要があります。