1 弁護士が書く文章
弁護士は,毎日多くの文章を書いていますが,大事なことは,分かりやすい文章を書くことです。裁判では多くの書面を作成しますし,依頼者や顧問先に対して報告書や意見書などを作りますが,読みやすい,分かりやすい文章でなければ,相手に読んでもらえませんし,内容を正確に理解してもらうことはできません。
2 日本語の作文技術
わかりやすい文章を書くための方法については多くの書籍が出版されています。私も,かなり多くの本を読んできました。その中で,わかりやすい文章を書くという点では,本多勝一著「日本語の作文技術」,「実践・日本語の作文技術」がとても勉強になりました。
その中から,いくつか紹介したいと思います。
3 主語ではなく述語をメインに考える
日本語の大黒柱は述語であり,主語ではありません。述語に色々な修飾語が係っていくのが日本語です。この修飾語とは広義の修飾語であり,主語も含まれます。
それに対し,英語は主語が大黒柱です。「雨が降る」を英語では「It is rain」と言いますが,意味のない形式主語「It」を用います。
大黒柱である述語に係る修飾語は,主語も含めて,対等です。本来は,どんな順にしてもよいのですが,分かりやすさという点で,いくつかのルールがあります。
4 節と句
一枚の紙について,三つの修飾語を考えます。
・白い紙
・横線の引かれた紙
・厚手の紙
これを「白い横線の引かれた厚手の紙」と書くと,「白い」が「横線」を修飾しているように読めてしまいます。
このような場合は,節を先に,句を後にします。「横線の引かれた厚手の白い紙」と書けば,誤解は生じません。
5 修飾語の長さ
次の文章はどうでしょうか。
私は明日はたぶん大雨になるのではないかと思った。
このような文章をよく目にします。主語である「私は」を必ず文頭に置かなければならないと考えているのでしょう。
第2のルールは,「長い修飾語は前に,短い修飾語は後に」というものです。日本語では,述語以外はすべて修飾語(広義)になります。
明日はたぶん大雨になるのではないかと私は思った。
こちらの方が分かりやすいでしょう。
次の例はどうでしょうか。
明日は雨だとこの地方の自然に長くなじんできた私は思った。
この地方の自然に長くなじんできた私は明日は雨だと思った。
後者が分かりやすいですね。
「思った」という述語に「明日は雨だと」と「この地方の自然に長くなじんできた私は」の二つの修飾語がかかっていますが,長い方を前に持ってくると分かりやすくなるのです。