1 意見の表明

 インターネットの前の時代,自分の意見を広く発信することは簡単ではありませんでした。人を集めて講演するとか,新聞に投稿するなど手段は限られていました。

 

その代わり,意見を表明するために,内容を深く考え,自分の意見が誰にどのような影響を与えるかなども,よく吟味し,推敲を重ねました。

 

2 SNS

現代はSNSの登場により誰もが簡単に意見を表明できるようになりました。これは素晴らしいことです。しかし,その反面,深く考えないまま自分の考えを投稿したり,深く考えずにリツイートすることが多くなっています。

 

3 意見を持つこと

あるテーマについて自分の意見をまとめるには,そのテーマの背景事情,対立する意見,それらの意見が根拠とする事実や考え方などを丁寧に調べる必要があります。

 

調べていくとどの意見にもそれなりの理由があります。結論として賛成はできませんが,その人が意見を持つに至った理由は理解できます。

そのような過程を経て自分の意見をまとめることによって,深みが出てきます。

 

4 直感的な意見

「○○ウザい」とか「○○嫌い」という発言に代表されますが,直感的,感覚的,情緒的な意見が多くあります。

 

そこまで短絡的ものではなくても,ステレオタイプ(多くの人の先入観,思い込み,固定観念,レッテル,偏見など)に基づいた意見が多くあります。「○国人は○○だ」というような十把一絡げにするようなものです。

ステレオタイプにもとづく議論は,建設的なものではありません。

 

5 分かっているつもり

私たちは様々な問題についてよく分かっていると思っています。しかし,実はあまり分かっていません。

 

皆さんはファスナーの仕組みをご存じでしょうか。多くの方が「分かっているよ」と言われると思います。

 

では,ファスナーの仕組みを小学生にも分かるように,図に書いて説明してもらえますか。

 

私もファスナーの仕組みくらい分かっていると思っていましたが,実はまったく分かっていませんでした。このファスナーの話はロルフ・ドベリ著「Think clearly」に書かれています。

 

私たちは実はあまり物事を分かっていないのです。

 

5 意見を求められる

自分が深く考えたことがないテーマについて意見を求められることがあります。そんなとき「その問題はよく考えたことがないから分かりません」と答えるべきですが,なかなか言えません。

 

「そんなことも分からないのか」と思われたくないというおかしなプライドが邪魔をしますし,会話の流れに乗らないことへの不安もあります。

 

しかし,分からないことは「分からない」ときっぱり言う素晴らしい人もあります。

私も努めて「そのことはよく分かりません」と言うようにしていますが,これは勇気がいることです。

 

6 事実にもとづいて自分の頭で考える

情報があふれている現代に生きている私たちにとって,もっとも大切なことは事実を確認することと,その事実にもとづいて自分の頭でよく考えることです。

 

ステレオタイプの意見とは距離を置くようにしましょう。

そして,勇気を持って言いましょう。

 

 「そのことはよく分かりません」