1 言葉遣い  

最近,言葉遣いが気になります。

敬語の使い方を知らない人が多いように思います。言語は変化するものなので,絶対的なものではありません。おかしな敬語が,やがて正しい敬語になっていく過程かもしれませんが,やはり気になります。

 

弁護士もそうですが,人を相手にする仕事では,おかしな敬語を使っていると言葉遣いに敏感な人からは嫌われます。正しい敬語を使っていれば,嫌われることはありません。

自然に敬語を使いこなせるようになることは大切なことです。

 

2 二者間のみの敬語

相手と私の二者間の会話で,第三者が登場しない場合の敬語は,それほど難しくありません。目上の人,お客様,取引先などに対して,相手を持ち上げる尊敬語か,自分を下げる謙譲語を使うことになります。

 

考える必要があるのは尊敬の度合いをどの程度に設定するかということです。

「食べる」の敬語として,「食べられる」,「召し上がる」,「お召し上がりになる」,「召し上がられる」いう色々な言い方があります(二重敬語も含まれています)。

 

3 第三者が会話に登場する場合の敬語

 相手と私の会話の中に,第三者が登場する場合があります。この場合に,敬語が破綻している人を見かけます。おそらく,「いつでもどこでも誰に対しても尊敬語を使うことが正しい」と思っているようですが,その第三者と私の関係,第三者と相手の関係を考慮する必要があります。

 

私も相手方とも,関係の薄い第三者であれば,敬語は必要ありません。「Aさんが○○しました」となります。「Aさんが○○されました」とか「○○してくださいました」というのは,私にとっても相手にとってもAさんが尊敬すべき人の場合に限って使う表現です。

 

相手がAさんと何の関係もないのに「Aさんが○○されました」と言うことは,「私はあなたよりもAさんを尊敬しています」という意味になりますので,気をつけなければなりません。

 

4 三人の関係

私よりもAさんが目上で,Aさんよりも相手が上の場合は気をつける必要があります。

私がAさんのことを相手に言う場合,Aさんが私の目上であっても敬語を使わないことが一般的です。Aさんについて敬語を使うと相手よりもAさんを上に持ち上げることとなってしまいますので,相手に失礼となります。

 

 しかし,私とAさんの差,Aさんと相手の差の程度によって,変わってきます。私(役職なし),Aさん(主任),相手(部長)の場合,「Aさんは○○しました」が正解です。

 

私(役職なし),Aさん(常務取締役),相手(社長)という場合は,「Aさん(A常務)が○○しました」ではダメです。私とAさんの差が大きく,Aさんと相手の差が小さいからです。

 

5 エリア

私と相手の会話の中に登場するAさんが,私のエリアの人か,相手のエリアの人かによって,言葉遣いは変わります。エリアとは家族,職場,グループなどです。

 

Aさんが私のエリアの人であれば,Aさんについて敬語は使いません。謙譲語を使うことが一般的です。「私どもの社長がこのように申しております」というような言い方です。

 

Aさんが相手方のエリアの人であれば,尊敬語を使います。「お嬢様は幼稚園に通っておられるんですね」という感じです。

 

6 相手の感じ方

大まかなルールや型というものがあるので,それをしっかりと押さえておくことが大事です。

しかし,基本は,話をしている相手がどう受け止めるかということになります。私の見方と相手の見方がずれていると不快な思いを与えてしまいます。

私が考えるレベル感やエリア感ではなく,相手がどう考えているかが基準となります。

 

そして,その場で考えて話すのではなく,自然と正しい敬語が出てくるようになる必要があります。

 

7 させて頂きます

「させて頂きます」とは,「本来なら私のような者にはできないけれども,お許しを得てさせて頂きます」という意味です。自分がへりくだって,許してくれた人を尊敬する言い方です。

 

「させて頂きます」については,おかしな言い方が沢山あります。

「先日テレビを買わせて頂きました」 家電店に対する敬語でしょうか。

「本来私のような者があんな立派なお店で買い物することができないのに,店長のお許しを得て買わせて頂きました」というのは変ですね。

 

「先日,殺人事件の弁護をさせて頂きました」というものもあります。

「本来,あんな立派な被告人を私のような者が弁護することはできないのに,被告人のお許しを得てさせて頂くことができました」ということでしょうか。

 

「させて頂きます」という言葉遣いは最近,急速に広がりましたが,乱用気味です。私は極力使わないようにしています。

 

8 周囲の影響

敬語や言葉遣いは,自分の周囲の影響を強く受けます。かなり乱れ気味の時代ですので,乱れた言葉の中にいると,それが自分にうつってしまいます。できるだけ綺麗な日本語を使う人に近づきましょう。

 

マスコミではNHKのアナウンサーがダントツに美しい日本語ですね。NHKのアナウンサーの言葉遣いの真似ができれば,最高です。民放ではおかしな言葉遣いが多いので私はできるだけ接触しないようにしています。

 

また,国会中継がありますが,質問や答弁の中にはひどい敬語が沢山あります。「総理が申されましたように」などという言葉遣いが頻発します。国会議員や大臣のおかしな言葉遣いを真似してはいけません。

 

美しい言葉を使うことによって,人間関係も美しくなり,職場や社会も美しくなると思います。努力しましょう。