1 依存症
弁護士として仕事をしていると,様々な依存症の人たちと出会います。
薬物依存で覚せい剤使用を繰り返す人,飲酒運転で事故を起こしたアルコール依存症,ギャンブル依存や買い物依存で借金が膨らんだ人などです。
依存症と聞くと,「特殊な人」と考える人が多いと思いますが,そうではありません。
実は,すべての人は何かに依存しています。
「依存」は人間の本質であり,依存状態から容易に依存症へ進むことがあります。
依存症をよく知ることが大切です。
依存症には,物質依存(薬物,アルコール,ニコチンなど)と,プロセス依存(ギャンブル,ゲーム,買い物,恋人など)があります。
今回は,物質依存の一つである薬物依存について書きたいと思います。
2 薬物依存症
薬物使用で有名人が逮捕される事件が後を絶ちません。清原選手,酒井法子,ASKA,槇原敬之などです。
薬物の使用がやめられないのは意志が弱いからだと言う人が少なくありませんが,意志の力でやめられるようなものではありません。
薬物犯罪の再犯率は非常に高いのです。
薬物依存を理解するには,脳の快感回路を知る必要があります。
3 ラットの実験
レバーを押すとラットの脳内のある部分に電流が流れるという装置を使って実験が行われました。
電流によりラットが快感を得るのですが,ラットは1時間に7000回もレバーを押し続けました。
空腹になっても,のどが渇いても 押し続けました。
出産後の母親ラットは子どもを放置して,また,レバーに近づくと足に電気ショックが与えられても,ラットはレバーを押し続けました。
寝ずに24時間押し続けたラットもありました。
4 脳内快感物質
薬物を摂取すると脳内にドーパミン,エンドルフィン,セロトニン,オキシトシンなどの快感物質が放出され,強烈な快感と充足感を得ます。
実験でレバーを押し続けたラットと同じ状態になるのです。
しかし,その快感は長続きせず,やがて喪失感が訪れます。
そこで,また薬物を使用して快感を得ますが,しばらくすると喪失感がやってきます。
これを繰り返すうちに薬物に対する耐性が高まっていきます。
同じ量の薬物では快感が得られなくなり,快感を得るために必要な薬物の量が増えていくのです。
5 渇望感
そして,依存症が進むと渇望感が強まります。強烈に薬物を求めるようになるのですが,耐性が進むと,薬物を使用しても快感はさほど得られないようになります。
しかし,渇望感だけは強烈にあり,無性に薬物がほしくなります。
もはや快感が得られないのに,ひたすら求めることになるのです。
強い意志で止められるようなものではありません。
これが薬物依存症の仕組みです。
6 ポルトガルにおける非犯罪化
薬物依存症は病気ですから,治療が必要です。
刑務所に収容するという処罰によって治癒するものではありません。
かつてのポルトガルは,薬物犯罪が蔓延していましたが,2001年に薬物使用を非犯罪化しました。
薬物を使用する人は犯罪者ではなく,治療が必要な患者と捉え,必要な治療や支援を行うこととしたのです。その結果,薬物使用者は減っていきました。
「犯罪者」として社会から排除しようとすると,その人は居場所がなくなって,薬物使用に向かってしまいます。
「患者」として,必要な治療や支援をしていくことが必要です。
7 一部執行猶予制度
我が国でも,一部執行猶予制度という懲役と更生プログラムを一体化した制度が始まっています。
薬物依存者を患者として治療しようとするアプローチです。
しかし,社会としては,薬物使用者を強く排除しようとしています。
「覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか?」という広告に代表される「覚せい剤を使っている人は人間ではない」という誤った見方が広く浸透しているのです。
8 薬物依存を深く理解しましょう
薬物依存に関する詳細なレポートがありますので,是非読んで下さい。