1 物を売るな,価値を売れ

 これは経営コンサルタントがよく使う言葉です。「ドリルを売るには穴を売れ」とも言われます。ホームセンターへドリルを買いに行く人は何がほしいのでしょうか。それはドリルではなく,穴なのです。ドリルメーカーは穴という価値を売っているのです。

 メーカーであれば,「物を売るな。価値を売れ。」となりますが,弁護士の場合は「サービスを売るな。価値を売れ。」ということになります。

 

2 弁護士にどんな価値を求めているのか

 では,法律事務所に来る人は何を求めているのでしょうか。相談者,依頼者は弁護士にどんな価値を求めているのかということです。この問いには,「法的知識だ」とか,「勝訴判決を求めている」などと答える人が多いと思いますが,本当にそうでしょうか。法的知識であれば,Googleの勝ちです。その場で,すぐに,無料で法的知識を得ることができます。法的知識の提供ということになると弁護士はGoogleに勝てません。

 法的に正しいアドバイスをしたのに,怒ってしまう相談者があります。また,裁判に勝ったのに不満を述べる人,逆に裁判に負けたのに満足する人があります。私たちは相談者,依頼者が求めている真の価値を知る必要があります。

 

3 安心と納得

 結論から述べると,相談者が弁護士に求めているものは「安心」と「納得」という価値だと思います。

 トラブルに巻き込まれた人は,「この先どうなるのだろう」という不安な思いで一杯です。1日も早く,不安や心配のない,安心で平穏な生活を取り戻したいと願っています。

 また,自分が受けている仕打ちに腹を立てているのは,そのことに納得ができないからです。どうして,自分がこんな目にあわなければならないのか理解できないのです。裁判に勝って腹を立てている人は何か納得ができないところがあるからです。裁判に負けても満足している人は納得ができたからです。

 相談者の訴えは,様々な形をとっていますが,本質を知る必要があります。激しく相手を非難したり,「徹底的にやっつけてほしい」と述べる場合もありますが,「やっつけてほしい」と言われ,弁護士が相手をやっつけたとしても,満足はされません。

 表面的な訴えが本音とは限らないのです。それどころか,本音が違っている場合がかなりあります。

 

4 言葉に出していることではない

 「借金が膨らんでしまって返済が追いつきません。返済のために借金をするような状態です。このままでは破産しなければなりません。何とかいい方法はないでしょうか」という相談がよくあります。「破産したくない」という訴えですが,相談者の本心は「破産したら悲惨な生活が待っている。そんな事態は避けたい。借金に追われない平穏な日常生活を取り戻したい」というものです。この願いを実現する方法が自己破産ですので,弁護士は相談者に対して破産を勧めます。自己破産することは人生のリセットボタンを押すようなものです。持っている財産の範囲で借金を支払い,残った借金をゼロにしてリスタートするというのが破産という制度であり,破産してしまえば,平穏な生活が取り戻せるのです。自己破産した依頼者が「こんなことならもっと早く破産したらよかった」と感想を述べることは珍しくありません。 

 相談者,依頼者は弁護士に対して,安心と納得を求めているのです。では,弁護士は相談者や依頼者が求めている価値を提供できているでしょうか。この続きは明日にします。