便利でためになるHP⑥のおまけ:漢字の書き順物語 | こばじぃのブログ

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三軒茶屋から山梨県上野原に転居した【ぢぢぃ】のアレコレ

2022/6/1:サイドバーに、
上野原情報メディア「めためたUENOHARA」による、
YouTube「八重山と、こばじぃ」をリンクしました

小学校低学年の頃、数年間、書道塾に行っていた。


大人になって、子供の国語の教科書を見て愕然とした。



こばじぃのブログ が出ていない!」



こばじぃのブログ は出ているのに、出ちゃダメだって!」



こばじぃのブログ の書き順が違う!」



まずは女から。

オイラが習った女は、ノが一の上に出ていたのに!
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右が習った字体だけど、

“女には角(つの)が無い方が良い”って事で、出ないようにした、なんて誰かが言ってた。



そして糸だが、

なぜこれが6画なのかが解らなかったが、

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どうも左側の飛び出しは“装飾”らしい。

だったら、最初っから右側のような字体にして欲しいなぁ。

あっ、右のフォントは“教科書体”だよ。


そして上だよ。

いつだったかテレビで、“漢字書き順クイズ”みたいなヤツをやってたので、

見るともなしに見ていたら、“上”が出題され、

回答者(タレントらしい)が、短い横棒から書き始めたら…

「間違ってるのはコッチ!」と言って不正解にされてしまった。


待てーーーっ!


オイラは知っているのだ。

漢字に“正しい書き順”なんか無いことを。




というのも、日本では昭和33年までは、公的に書き順を記したものは無く、

一応の指標となるものは書道塾の講師や、

学校の先生によるものが有ったが、

書道の流派によっては書き順が違っていたりしており、

誰が困っていた訳でもないのに、文部省(当時)が余分な事をしたんだ。


文部省「筆順指導の手びき」(1957年12月)より抜粋

漢字の筆順については、書家の間に種々行われているものや、

通俗的に行われているものなどがあって、

同一文字についてもいくつかの筆順が行われている。

このことが、そのまま学校教育にも行われているのが現状である。

これに加えて、昭和23年4月に当用漢字字体表が告示されるにおよび、

新字体に基く筆順等もあって、

小・中学校の現場におけるこの面の指導は、

同一学校、同一学年においても必ずしも統一されているとは言えない。

このような指導上の不統一は、

児童・生徒に対し筆順を軽視せしめる緒果となるのみならず、

教師の漢字指導の効果や能率にも影響するところが大きいと思われる。

漢字の筆順の現状についてみると、

書家の間に行われているものについても、

通俗的に一般杜会に行われているものについても、

同一文字に2種あるいは3種の筆順が行われている。

特に楷書体の筆順について問題が多い。

もちろん、本書に示される筆順は、

学習指導上に混乱を来たさないようにとの配慮から定められたものであって、

そのことは、ここに取りあげなかった筆順についても、

これを誤りとするものでもなく、また否定しようとするものでもない。


簡単に言うと、

「国は漢字の書き順を示すが、これがすべてではない」って事になるが、

恐れ多くも、国家が出した指針ゆえ、教育機関がみんな「右へならえ」してしまい、

これを元にして『書き順テスト』なるものを始めたから、さぁ大変…


文部省「筆順指導の手びき」では“筆順大原則”というものがあり、

上から下へ(言)、左から右へ(州)、

縦棒と横棒が交わる場合は普通は横が先(十)、

中央と左右の場合は中央が先(小)、などなどとあり、

例外が例示されている。



(以下3枚の画像は、小学館『新選 漢和辞典』昭和41年版からキャプチャー)
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これもおかしいよ。

「“右”という字は、長めの払いを先に書き、次に短めの横棒を書く」

「“左”という字は、先に長い横棒を書き、次に短めの払いを書く」

って言い方をするべきじゃないだろうか。

この場合は、書き順よりも横棒と払いの長さに気を付けるべきなんじゃないのかなぁ。


そして問題はこの次だ。
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慣用的に何種類かの筆順があるって文部省が言ってるのに、

テストでは、だけが正解、すなわち b は間違いだという事になり、

市販されている『書き順辞典』の類も、この例外を扱っていない場合が多い。


ねっ、大変でしょっ?


だって、極論すると、どんな書き順で漢字を書いても、

どれも“間違いじゃない”って国が言ってるのに、

教師を始めとする教育者?が“間違いだっ”って言う。



ちなみに、上という文字は伝統的に短い横棒から書くのが普通だが、
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文部省は当時、こんな事を言っていた。

「上」は、「書き易さ」という点でいうと、

その条件である筆路の最短コースを辿る「 -│ 一」が適当です。

しかし、「覚え易さ」という点でいうと

「止正足走武」などの「上」と同形の部分を持つ他の漢字との整合性から

「│- 一」が適当になります。


こういうのって“整合性”って言わないよねぇ。


昔読んだ、日本語のウンチク本に書かれていたのは、

当時の審議委員の一人がゴリ押ししたらしい。


だったら、右と左も“整合性”を持たせれば良かったのに。

そう、中国では、「右」「左」の「ナ」の部分は「一ノ」という順序で統一しています。

しかし、日本では、「覚え易さ」よりも「整え易さ」や字源を強調して、

「右」は「ノ一」の順に、「左」は「一ノ」の順に書き分けます。


ねっ、今度は“覚え易さ”は無視された。



ネット上には意外に多くの“書き順サイト”があるが、

その中で最も“寛容”だと思われるのが、

K'sBookShelfさんの“漢字筆順辞典”だろうか。

http://ksbookshelf.com/DW/Hitsujun/index.html


その一部を紹介すると
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こんな感じで、

パーツ毎に分けられているのも良いし、

同じパーツが幾つも並んでいる(例えば感)のは書き方が複数あるという事で、

赤枠のものは「お勧めできない筆順」となっている。

(ここでも“間違い”だとは言ってない)


“感”を四つとも開けてみたが、うれしくなった。




また、大修館書店漢和辞典編集部による、

漢字に関する質問の中から、興味深いものを選んで紹介してくれているサイト

http://www.taishukan.co.jp/kanji/

もお勧めだ。




そしてもう一つ。

書道三体字典という、楷書・行書・草書を見られるサイト

http://www013.upp.so-net.ne.jp/santai/santai.htm

も興味深い。




日本語も漢字も、とても奥深く楽しいものだが、

(正解のない)“漢字書き順テスト”などをやって、

子供達から好奇心を奪わないで欲しい。


そして大人たちへ。

いくら正解がないからといって適当な自分勝手な書き方は慎もう。

人前で漢字を書く時に、品位を疑われてしまうよ♪





P.S.

混乱に拍車をかけてしまった「筆順指導の手びき」は、

いつの間にか消えてなくなった。

無くせば混乱が無くなる、ってわけじゃないのに…