いつからだろう。わたしがこんなにも
 恋愛にのめり込むようになったのは


 でも、その答えは既に出ている。
 きっと、いや、絶対由依に会ってからだと


 今までのわたしだったら考えられなかった。
 面倒くさくなったらすぐに別れる。わたしの中の
 恋愛はそういうものだと思っていた


 だから、過去の自分が見たら驚くだろうな


 こんなにも彼女に振り回されている
 わたしが居るだなんて


 そして、それが自分の幸せだなんて思っている事に



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 由「早く支度しないと映画の時間来ちゃうよ〜」

 理「もう出れるからちょっと待って!」

 由「もう」


 デートの日である今日。
 結構急いで準備しているはずなのに、何故か彼女の方が
 終わるのが早くて急かされるのは日課


 わたしだって由依の恋人だし、綺麗で可愛い彼女に
 見合う恋人でいたい、とそう思う


 だからいつもより服装にも気合いが入るし髪の毛だって
 スタイリング剤を付けながらセットする


 全ての身支度が終わって、よし!と思えば......


 由「あれ....あのピアスってどこだっけ?」

 理「え?いつもの棚にあるんじゃない?」

 由「ちょっと探してくる〜」


 わたしがやっと身支度が終われば入れ替わるように
 ピアスを探し出す彼女。あれだけ急かしていたのに
 自分はマイペースで、平気でわたしを待たすんだ


 でも、それさえも許してしまうのはきっと、
 そんな由依も大好きだからなんだと思う


 由「ねえ、今日のわたし、いつもとちょっと違くない?」

 理「え、っと.....そうだね」

 由「どこが変わったと思う?」


 デートだからお洒落してるのは分かるけど、
 どこかと聞かれれば頭を抱えてしまいそうな程に悩む


 でも分からないだなんて言った時には
 きっと怒らせてしまって、せっかく約束したデートも
 行かないとか言われて機嫌を損ねてしまうだろう


 理「....あ!リップの色変えた?」

 由「そう!やっぱかわいいよねこの色〜」

 理「めちゃくちゃかわいい。似合ってるよ」


 一か八かで賭けた勝負も大当たり


 でも結果的に丸く収まったんだから、わたしがちゃんと
 把握していたかなんてどうでも良くて、改めてリップが
 塗られた唇に視線を移すと確かにいつもより明るい
 色になっていた


 そんなもの付けなくたってかわいいのに。
 そう伝えられたらきっと君は照れるだろうな




 家でまったりテレビを見ている時だってそう


 あれだけ2人でケラケラ笑っていたのに
 突然流れたCMに、彼女は釘付け


 前から好きだと言っていたタレントが映っているCMで
 爽やかな笑顔を見せるそのタレントに由依は表情を
 蕩けさせるかのように見惚れていた


 いくら現実味がないと分かっていても、他の人に
 揺れている彼女を見るのは良いものではない


 その横顔を見る度に心臓が蝕まれていくような気がして
 一刻も早くチャンネルを変えて抱きしめたいと思った


 由「わっ、どうしたの?」

 理「ん?ちょっとこうしたかっただけ」

 由「甘えたい気分になっちゃったの?」

 理「そんな感じ〜」

 由「全く、仕方ないなぁ」


 チャンネルを変える勇気なんてなく、嫉妬心を伝える
 事もできなかったからせめて抱きしめてわたしだけの
 ものと脳内に埋め込みたかった


 だから、隣にいる彼女を後ろから抱き寄せて、
 髪の毛から首元に顔を埋めると鼻いっぱいに香る
 由依のいい匂い


 そんなわたしの行動に照れてる彼女だったけど
 満更でもないみたいで、素直に抱かれて笑ってくれた




 だけどイラッとする事も稀にある


 同棲している家から会社に行く間際、
 朝からなんとなく雲行きが怪しかった


 いや、晴れてはいるんだけど......なんていうか外の匂い
 とか、なんとなく降りそうだな〜っていう瞬間って
 あるじゃない?


 そんな予感を感じていたから少しばかり不安で


 理「ねえ、なんか雨降りそうじゃない?」

 由「そう?天気予報ではずっと晴れだって言ってたよ」

 理「だよね〜、一応折り畳み傘持っていこうかな〜。でも荷物になっちゃうしな、、」

 由「今も晴れてるんだし予報でも降らないって言ってるんだから大丈夫だよ。心配しすぎ」


 朝ごはんの片付けをする彼女にそう諭されて
 わたしは渋々玄関へ向かって靴を履く


 まあ、天気予報でも晴れみたいだし大丈夫かな。
 予報士が言ってるくらいだもん。そう言い聞かせて
 自信を持って自宅から会社へと向かった


 だけど結局


 理「はぁ、嘘でしょ......」


 わたしの予感はやっぱり当たっていた


 仕事が終わった後、電車から下り、駅のホームから
 軽く空を見上げて上から気持ち良さそうに降っている
 雨を憎たらしく思った


 何が1日中晴れなの。本当に天気予報士なの?


 どうするのこれ.....濡れて帰らなきゃいけないじゃん
 ついてないな


 そんな独り言を心の中で呟きながら構内を歩き
 駅の出入口に近づいていくと、何故か愛おしくて
 たまらない人の声が聞こえて


 由「理佐!」

 理「.....え、由依?」

 由「お疲れ様!」

 理「あ、え?....うん、....どうしたの?こんなとこで」

 由「理佐、傘持ってないでしょ?濡れたら困ると思って....持ってきた」


 くしゃっと笑う顔は、わたしが1番好きな由依で
 思わず抱きしめたくなってしまうほど


 正直、由依にもイラッとしていた。
 別に彼女は悪くないのに、絶対晴れだなんて
 言い張るからちょっとはわたしの味方
 してくれてもいいのに....だなんて不貞腐れたりして


 だけど、わざわざこんな雨の中傘を持ってきてくれた
 だなんて嬉しくて仕方なくて、さっきまで抱いていた
 彼女に対しての軽い嫌悪感は一気にどこかへ
 消えてしまった


 理「由依だってちょっと濡れてるじゃん、風邪引いちゃうよ」

 由「わたしは大丈夫!早く帰ろう?」

 理「うん。ありがとう」


 少し濡れている由依の頭を触りながら
 申し訳なさに駆られる。本当はすごくいい子なのに
 わたしはなんでイライラしていたんだろうって


 彼女が持っていたもう1つの傘を渡されて
 それを開こうとボタンを外したけど、少し考えて
 すぐにボタンをまた閉めた


 そんなわたしの行動を由依は不思議そうに見ていて


 由「傘ささないの?」

 理「由依の傘の方が大きいから一緒に入ろうと思って」

 由「え、狭いよ」

 理「いいじゃん。くっついて歩けば濡れないよ」

 由「せっかく持ってきたのに、」

 理「たまにはいいでしょー?」


 ほんのちょっとだけ頬をぷく〜っとさせた由依は
 渋々わたしのスペースを開けてくれて、その大きな
 傘の中に体を小さくして入った


 いつぶりだろう。彼女と相合い傘なんて


 付き合う前に何度かあったっけ


 そんな昔話を思い浮かべながらも由依が "行こ?" 
 だなんて急かすから、わたしは咄嗟に彼女の腕を
 掴んでいた


 理「待って」

 由「え?」


 傘を低くして周りから見えないようにすると、
 由依に近付いて唇にキスを落とした


 ちゅっと音を立てながら可愛らしい口付けをして
 顔を離すと、予想外の事だったのか思いっきり
 びっくりして呆然としている彼女がいて


 由「っ!なに!?」

 理「したくなっちゃった」

 由「周りに人いるのに......」

 理「見えてないよ。ありがとう、迎えに来てくれて」

 由「.....っ、」

 理「ふふ、行こっか」


 傘を持ちながら手をぎゅっと握ると
 すごく熱くなっていて、きっとわたしからのキスに
 火照ったのかな


 よく見ると顔も真っ赤になっているような気がして
 いつもは彼女の方が一枚上手なのに.....
 襲ってくる優越感は計り知れない


 由依が濡れないようにグッと引き寄せて、その分
 ポタポタとわたしの肩に落ちる雨はきっと
 賞賛の雨、だろうか


 由「もう!これからスーパー行って買い物袋全部持ってもらうから!」

 理「え、スーパー行くの?今日の夜ご飯?」

 由「重たい物たくさん買ってやるんだから」

 理「ゆい〜それは勘弁してよ〜」


 結局、彼女の方がわたしを手のひらで転がすのが上手い


 ぷんすかしているくせに内心はきっと怒っていない。
 そんな由依がかわいくてかわいくて仕方なかった


 毎朝寝起き悪いし、痩せたいな〜って口癖を言いながら
 お菓子をやめられないところも由依だったら全て許せる


 別に悪口を言いたい訳じゃない。他の人なら許せない
 事も彼女だったら許せて、全部が愛おしくてたまらない
 ってわけで


 罪だとは1ミリも思ったことはない


 だから離したくないんだ。わたしが離れられないだけ
 なんだけど、こんな愛おしい人をわたし以外の人が
 幸せにしてるだなんて考えたくもない


 由依の今も未来も、わたしのもので。


 わたしの今も未来も、彼女の手のひらにあるんだ


 
 Fin*