「大人のパリ」 | Captain’s Eye ~小林宏之 コラム~

「大人のパリ」


 国際線のパイロットに共通の楽しみの一つに、世界各国の食べ物を味わうことができることがある。
11月中旬になると、パリでは解禁されたばかりのボジョヌーボで味わうカキが一段と美味しくなる。また、11月のパリは、晩秋の装いを一段と色濃く深くし、パリが最もパリらしくなる時期であり、フライトでのつかの間のパリ滞在中には、マロニエの並木道をコートの襟を立てて、枯葉を踏みしめながらひとりでよく歩いた。
子犬を連れたパリジェンヌが、フランスパンを小脇に抱えてすれ違ってゆく。その後ろ姿に何となく恋をしたくなる。
もちろん彼女は振りむいてくれない。
それでもいい。
またひとりで歩き続ける。
セーヌ河畔では、恋人たちがプラタナスの木に寄り添って愛を語り合っている。

晩秋のパリは、大人の恋がよく似合う。

そして、大人の感性を磨いてくれる。
いつの間にか、大人のパリに恋している自分に気づくのである。
翌日は、またドゴール空港を発って成田に向かう、12時間の厳しフライトが待っている。この硬軟の落差がまたいい。




Captain’s Eye ~小林宏之 コラム~