先日、楽しみにしていた、東京都美術館で開催中の「デ・キリコ展」内覧会へ。
(許可を得て撮影しています)
20世紀の美術界を揺るがしたイタリアの巨匠、ジョルジョ・デ・キリコ。
国内では10年ぶりとなる大規模な回顧展です。
デ・キリコといえば、形而上絵画と呼ばれる、
不思議な感覚を呼び起こす作品のイメージが強かったのですが…生涯において、何百枚もの自画像を描いたそうです。
「自画像」1929年頃
ヨーゼフ・ダッレ・ノガーレ・コレクション
©Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
一度見たら、忘れなさそうなお顔!
街でお会いしたら、あ!キリコさん!
と、すぐ気づかれちゃいそうです。
ご本人のお写真もあったのですが、
そっくりでした。イタリアの血を感じる、彫りの深い顔立ちです。
「秋」1935年 ノヴェチェント美術館
©Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
自画像のほかに、肖像画も多く描いていました。
こちらは後に妻となるイザベラ・ファー。
この絵がとても好きで、しばらく見惚れてしまいました。作品の中心テーマは、秋の詩情で、
デ・キリコは常に秋という季節に、絵画制作における深遠な着想源を見出していたのだとか。
半袖なので、まだ秋が深まる前なのでしょうか。
装いも、とても素敵で、
デ・キリコの秋シリーズを、もっと観たいなぁと思いました。
「形而上的なミューズたち」1918年
カステッロ・ディ・リヴォリ現代美術館
©Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
デ・キリコの絵にマヌカン(マネキン)が登場した時期は、第一次大戦の勃発と、それにともなう最初の爆撃の発生にぴったりと一致することを、初めて知りました。
実物を目の前にすると、
無力感や哀しみのようなものが伝わってくるようで。
がらんとした空洞のような心と、
それでも毅然とした態度を保とうとする画家の意志を感じました。
「南の歌」1930年
ウフィツ美術館群ピッティ宮近代美術館
©Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
時代が進むと、マヌカンがより人間化され、肉体を持ち、明るい雰囲気に変化していきました。
背景がルノワールのよう!
と思ったら、ルノワールに着想を得て、発展していった時期の作品でした。
古典主義と地中海的理想というモティーフで、
寄り添う二人から親密さと温もりを感じます。
「風景の中で水浴する女たちと赤い布」1945年
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
©Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
デ・キリコのイメージとは対照的な作品。
40年代にはバロック期の作品に惹かれ、伝統的な表現の研究と実践に力を注ぐようになります。
形而上絵画とは対極をいく姿勢は、論争も生みましたが、そもそもその論争を引き起こすことさえ意図していたことでした。
研究熱心!かつ自由!
あんなに新しいことやってたのに!とか、
今さら古典回帰なんて!とか言われたんだろうなぁ。でも、当時のメインストリームを形成していたのが前衛芸術だし、周りがみんな同じようなことをやっていたら、そこから抜け出したくなる気持ち、分かる気がする。
同じような役ばかりを演じていたら飽きちゃうように、
違う役も演じたくなっちゃうし、そこでまた新しい発見も沢山ある。
それこそ飽きられる前に、
自分から抜け出したのかもしれない。
「眠れる少女 (ヴァトーの原画に基づく)
1947年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
©Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
そして彼は、どんどん進化する。
「瞑想する人」1971年
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
©Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
この絵の迫力と異様さに強烈に惹きつけられた。
素性の分からない人物が、謎めいたものに覆われている。
舞台美術も手がけたデ・キリコは、
役者の肉体から発せられるオーラだとか、
感情的なものからも、影響を受け、自分に取り入れていったのだろうか。
「オデュッセウスの帰還」1968年
ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
©Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
右の窓からは画家の故郷ギリシャの風景が、
左の壁には形而上絵画がかけられている。
室内の椅子などもデ・キリコが過去に描いたモティーフで、画家は英雄と自身の人生を重ね合わせながら、この絵を描いた。
長く、険しく、果てしない旅路のようでありながら、結局は部屋の中をぐるぐる回っているようなものであったと考えたのか。
とにかく、この作品、なんとも可愛くて…好きです。
まだまだ素晴らしい作品が沢山ありますが、
それは観てのお楽しみということで!
グッズコーナーへ!
「デ・キリコ展」オリジナルグッズは、素敵なもので溢れかえっていました。
一番惹かれたのが、シルクスクリーンプリントで直接インクを焼き付けたグラス。インクの層を厚くすることで裏側に白を敷かない仕上げで、こういう優れた技術をもつ日本の町工場が減ってきているのだそう。色は、デ・キリコの絵から想起された4色。
私は茶色にしましたが、
最後まで隣の黄土色と迷いました。
4色買いをしたかった…
ビスコッティが4種類入った箱も、
ちゃんとデ・キリコ風。
ナナメっています。
マグカップ。ただの名前入りマグカップではありません。
これは、デ・キリコの時代からあるフォント、ボドニを使っていて、イタリアの方が見れば、すぐに分かるほど有名なフォントだそう。
「風変わりで色とりどりの玩具でいっぱいの、
奇妙な巨大ミュージアムを生きるように、世界を生きる」by デ・キリコ
彼のこの言葉のように、奇妙でユーモラスな、
巨大なおもちゃ箱の中に迷い込んだような、
面白い展覧会でした。
目に映る世界が、急に変わる日が来るのかもしれない。
デ・キリコ展は、8月29日まで。
東京都美術館で開催中です。
ここまで作品が集まるのは滅多にないので、
ぜひ。
会期:2024年4月27日(土)~8月29日(木)
休室日:月曜日、5月7日(火)、7月9日(火)~16日(火)
※ただし、4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)、7月8日
(月)、8月12日(月・休)は開室
開室時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉
室の30分前まで)
観覧料:一般 2,200円/大学生・専門学校生1,300円/65
歲以上1,500円