このところ、オペラの概念を覆され続けている。
昨夜観た、METライブビューイング「ホフマン物語」。
とある酒場で呑んだくれた詩人ホフマンは、かつて愛し、敗れた3つの恋について、回想し、
詩人として成長するという物語。
主人公ホフマンを演じるのは、テノール歌手のヴィットーリオ・グリゴーロ。
このグリゴーロの華やかさ、スター性、母性をくすぐる可愛さ、そして天性の歌声が、
「ホフマン物語」を、ただの恋の回想物語にしなかった。
一つ目の恋は、自動人形オランピア。
不思議な色メガネのせいで、人形を人間と思いこみ、彼女に恋をしてしまう。
オランピアの名アリア「生垣には、小鳥たち」では、人形のように、かちっこちっとコミカルに動きながら、
声はどこまでも伸びやかに、夜の女王もたじろぐ高音を、響かせる。
歌うのは、新進のエリン・モーリー。
むしろ、こんなに歌えるってことは、やっぱり人形なんじゃないか?と観客を惑わせるほどの歌いっぷり。
ホフマンでなくとも、魅了されてしまう。
そして二人目は、肺病のために歌ってはいけない、と父からきつく言われているアントニア。
しかし悪役ミラクル博士に無理やり歌わされ、こと切れる。
これだけの美声を持っているのなら歌いたくなるだろう。
役柄と本人がぴったり重なり合い、歌に命をを吸い取られていくような彼女のラストは、
悲しいけれど、清々しかった。
そして3人目は、娼婦ジュリエッタ。
悪魔に操られ、「彼をおもちゃにしてやる。」と、ホフマンをだまし、彼の影を奪う、怖い女!
そんなホフマンをずっと見守っているのが、詩人の女神、ミューズ。
「あなたの心を燃やした灰で あなたの才能を温めましょう」
「恋と涙によって 人は更に偉大になる」
エピローグでは、ミューズと今まで出会った全員が、静かに歌い、ホフマンに霊感を与える。
彼はきっと、素晴らしい詩を、書くだろう、と予感させ、
ミューズは、彼のもとをそっと離れていく。
崇高な、幕切れだった。思い出しただけでまた、涙ぐんでしまう・・・。
今日は、3月11日。
流した涙で、人は、よりよく生きられるようになれるでしょうか。
泣いた分だけ、強く、優しく、なれるでしょうか。
なれる、とは言い切れない。
でも、なりたい、と、私は心の底から思った。
芸術の力を、改めて今、信じている。