パイレーツ5作目「最後の海賊」のサウンドトラック。

まずは序。

14年前の1作目。シルヴェストリの伝統的な海賊映画音楽が破棄され、急転直下ジマーに話がいく。しかし「ラストサムライ」の契約上映画に関われなかったジマーは、当時目をかけていた弟子の一人クラウス・バデルトを「代役」として前面に据え、契約に違反しないよう自身は「オーバープロデュース」なる初耳の役柄で登板、沈没しかけていた新時代の海賊映画を大成功に導いた。


早々に続編の製作が決定し、2作目「デッドマンズチェスト」が作られる。今度はしっかり契約したジマーはバデルトを干して自身がメイン作曲家になる。


2作目以降、全くと言ってよい程名前が見られなくなったバデルトは、この頃からハリウッドでの仕事が減り、気が付けばジマーから逃げるようにフランスなど欧州に移動、引き続き映画音楽作曲家として活躍している。しかもジマーのように若手作曲家をしたがえて…


さて、今回はそんなジマーがずっと「オーバープロデュース」していた4作とは違い、その4作全ての追加作曲に名を連ねていたジョフ・ザネリが単独で作曲、ジマーはプロデュースからも退いている。

なぜジマーが関わらなくなったのか、こばけん的に考察してみた。

①シリーズ5作目になったしもう弟子に任せていっか
②別の作品の契約もあるしザネリ任せた!
③最近は欧州・米とハンス・ジマーLIVEがずっと忙しいんだよね
④ザネリ、君にももう少しいい作品をやらせてやるよ
⑤「ローンレンジャー」のウィリアムテルの君のアレンジがグレイトだったからパイレーツのアレンジも完璧だろ?
⑥「彼こそが海賊」はおいらとバデルト、ザネリの3人名義だったし、バデルトは干してるからザネリでいこうか
⑦1作目から4作目まで担当してるし状況わかってる君に決めた!

どれが当たっているかは私にはわからないが、昨年からの彼のスケジュールを見ていると③は大きいのではないであろうか。そして、やはり⑦か。

結果、ザネリは頑張った。これまでのパイレーツの様々なテーマ曲、モチーフをうまく用い、また、新たにサラザールのテーマ、アクションのテーマ、他、新たなテーマを作り出しファンを魅了したのだ。

しかし、

しかしである。

なんだろう、サウンドが全体的にまろやかすぎる気がする。聞き馴染みのあるテーマが出てきてもなぜか心踊らないのである。いや、楽しいは楽しいのだが、なぜか乗りきれない自分がいた。
ジマーが関わったサウンドはパイレーツに限らずヴァイオリンやグロッケン、打ち込みの打楽器など、高音域の音やホルンのフォルテがシャープにはっきり聞こえてくるのに対し、ザネリの仕事では少し靄のかかったような高音に聞こえるのだ。
また、アクションシーンの音楽のはったり感が少なく、映像のバタバタ感に比べると音楽が今一つ物足りなく感じたのである。

比較のために3作目「ワールドエンド」のクライマックス、フライングダッチマン号とパール号の対決時、ウィルがエリザベスにプロポーズするあたりのシーンの音楽を久しぶりに聞いてみた。


なんだこれ!やっぱジマーすげーわ((((;゜Д゜)))


これが感想である。
戦闘シーンはバタバタ。そこにたたみかけるような音楽。そしていきなりのプロポーズの瞬間のふわっと現れるやわらかな音楽。

あれに比べてしまうとザネリのアクションシーンの音楽は、山が平坦で、つなぎが単調に聞こえてしまうのだ。

また、演奏そのもののパワーも同じハリウッドスタジオのメンバーとは思えないくらい違うサウンドに聞こえる。

ホルンに関しては「ワールドエンド」ではサッチャーがいたのだが今回はこんなメンツ。


最近の常連さんを中心に17人クレジット。エヴァーソン氏はジマー系の録音ではほぼ毎回首席で登板。セッションによってはベイン氏がトップを張っているようだ。


今回のパイレーツ5作目、恐らく、ザネリの仕事に好意的な意見が多数をしめるのであろうが、パイレーツ音楽愛好家の私としてはもう少しだけパリッとしたサウンドが欲しかったなというところ。
しかし、リミックスだらけ、劇中にわずかしか聞こえてこなかったギターデュオのトラックだらけだった4作目のサントラに比べると遥かに素晴らしいサントラでもある。

いずれにせよファン必聴の1枚には間違いない。


追伸:どうでもよいが「最後の海賊」、どのへんが最後の海賊なのか(笑)。