【メルマガVol.4】超円高 | 小林鷹之 オフィシャルブログ Powered by Ameba

【メルマガVol.4】超円高

電力不足が心配された夏がようやく終わりました。
振り返れば、あっという間でした。
そして、もうすぐ震災から半年が経過しようとしています。
被災地の方々を含め、関係者の方々の懸命な努力により、一部では地方選挙が実施されるまでに至りました。
まだまだ解決すべき問題は山積する中で、政治的な空白を作ることなく、一人ひとりの力を結集して、着実に前進していかねばなりません。



さて、ようやく、「一定のメド」がついたようで、菅内閣が総辞職し、野田内閣が発足しました。正直、民主党代表選については、極めて短い時間に、目立った政策論争もなく、「親小沢vs.反小沢」といった国民にとってはどうでもいい内輪の論理によって、結果が大きく左右されたことが、昔の自民党を見ているようで非常に残念でした。ただし、結果的には、候補者の中では一番まともだと思える野田氏が勝利したことは不幸中の幸いであったように思います。

その野田総理に一点だけ要望するとすれば、私益や党益ではなく、国益というただ一点を基準に物事を判断し、行動して頂きたい。復興は勿論のこと、低迷する景気、急増する借金、破綻しかけている社会保障、そして戦略なき外交…と課題が山積する中で、明確なビジョンを示し、リーダーシップを発揮して頂きたい。

しかし、民主党役員人事や内閣の顔ぶれを見ていていると、「党内融和」を重視していることが一目瞭然です。これ自体を否定するつもりはありませんが、党内融和を重視するあまり、バラマキ政策や戦略なき外交を柱とするマニフェストを存続させ、国益を損ねることは絶対に許されません。
必要とされているのは、国益のために汗をかくドジョウであって、党内融和のために汗をかくドジョウではありません。


一方、野党・自民党は何をすべきか。政府の政策を厳しくチェックしつつ、是々非々で協力していくのは当然です。しかし、それだけでは十分ではありません。この国に残された猶予は長くありません。野党から次々に法案を提出し、与党を引っ張っていくくらいの気概が求められています。それが国益につながるし、ひいては党益にもつながる。
私も新人ではありますが、臆せずに意見を出してまいります。



次に、今足元で高止まりしている円相場について、若干コメントさせて頂きます。


目下、日本企業が生産拠点を海外へ移転する動きに拍車がかかっています。電力料金引き上げ懸念、高い法人税率、製造業への派遣の禁止などと共に、いわゆる「6重苦」して並び称される超円高も、その要因の一つです。
欧米の経済・財政状況が悪化していることにより、ユーロやドルに対する信認が揺らぎ、相対的に安全資産とされる円に資金が流入していることがその主な背景ですが、海外移転の傾向は何も大企業に限った話ではありません。


地元中小企業の経営者の方々のお話しを伺っていると、「もう限界だ。既に採算が合わなくなっている中で、これ以上円高が続けば倒産する。海外に事業所を移すことを真剣に考えている。」

こんな悲痛な叫びを予想以上に耳にします。

中にはこう語る経営者もいらっしゃいました。
「先日、中国のとある自治体から工場誘致の打診があった。現地視察に行くと、信じられないほどの広大な敷地を信じられないほどの価格で提供してくれると言われた。とても魅力を感じた。」
日本が世界に誇る高い技術、つまり日本の「宝」に他国が虎視眈々と食指を伸ばしつつある中で、この国の政治・行政からは危機感が感じられません。震災復旧の対応に忙殺されていることを言い訳にはできません。


ただでさえ失業率が高止まりし、雇用不安が募る中で、企業が「やむを得ず」海外に生産拠点を移せば、産業の空洞化が生じ、更なる雇用機会の減少を招きます。日本人一人ひとりが自力で海外へ飛び出せなければ、国内において労働力の供給過剰が生じ、賃金・給料は下がり、モノは売れず、デフレが更に深刻化する。経済が成長しなければ、財政、社会保障が立ち行かなくなるのは時間の問題。この国の未来は希望ではなく絶望で覆われる。


一方、隣の韓国はどうしているのか。
今や自動車、電子機器といった分野の輸出で日本の最大のライバルです。韓国の通貨はウォン。日本国内では「円高ドル安」の言葉が躍り、あたかもドルが全ての通貨に対して減価している印象がありますが、実はそうではありません。リーマンショック前と比較すると、むしろドルはウォンに対して増価(ウォン安ドル高)しています。韓国政府によるウォン売り介入がその一因と言われております。加えて、FTAを精力的に推進していることもあり、日本との価格競争において相当優位な立場にあります。我が国と異なり、明確な国家戦略があるんですね。その結果、日本の製造業は本当に苦しい立場に置かれています。


財務省で国際金融に携わった経験に照らすと、円高を前提とした産業政策を積極的に講じていく必要があります。また、それだけではなく円高を阻止する強い覚悟もマーケットに対して示していくことも必要です。

私のスタンスは次の通りです。


1.為替介入を継続する覚悟をマーケットに毅然と示すべきです。先日の政府高官の発言のように、為替介入を行う意思が欠けているとの印象をマーケットに与えてはなりません。欧米の現状を踏まえれば日米欧の協調介入は難しいでしょうが、いざとなったら刀を抜けるように緊密なコミュニケーションを続けておく必要があります。その意味で、今週フランスで行われるG7は安住財務大臣が他国の財務大臣や中央銀行総裁と面識を得られる絶好のチャンスです。危機を迎えている今だからこそ、リーダーシップを発揮し、デビュー戦を堂々と飾って頂きたい。


2.日銀の金融緩和を大胆に実施すべきです。8月の為替介入に合わせて日銀が発表した資産買入れ基金の積み増し(40兆円→50兆円)もマーケットの想定の範囲内でサプライズはありませんでした。当面のインフレ懸念はないわけですから、小刻みに上げるのではなく、市場の予想を良い意味で裏切るために「倍増」するくらいの大胆さが求められています。


3.中長期的には、現状のような欧米の状況に売買が大きく左右される「消極的選択肢としての通貨」から脱却していくために、円の国際化を進めていくことも必要だと考えます。



海外マーケットのシェアを奪うために積極的に海外進出するケースを除けば、「できるなら、今の場所でモノを作り続けて、従業員の雇用と技術を守りたい」これが経営者の方々の真摯な思いです。この思いに政治が応えなくてどうするのか。
現下の超円高を「国家的危機」として位置付けた上で、法人税の大幅な引き下げの他、国内設備投資への補助金の活用や、資金繰りが悪化した中小企業への長期資金の提供など、政策を総動員して、少なくとも他国と対等な条件で企業が勝負できる環境を政治が整え、産業の空洞化に歯止めをかける必要性を強く感じています。Made in Japanのブランドを守り抜けるか否か。政治の真価が問われています。