ファンタジー編
惑星神話シバルバ
第7部 ウタ族の大河
第16章 決壊1
ヒエンは馬の尻に鞭を打ち
密集隊形を取っているカコウの陣に
先行してひとり合流した。
退却しているゴ族の兵士達がヒエンに気付いた。
「ヒエン様っ」 「ヒエン様っ」 「ヒエン殿っ」
ヒエンが叫んだ。
「族長は! シュバランケ族長は無事かっ?」
「カコウは居るかっ! カコウを呼んで来い!」
その場の兵士達全員が返事をした。
「はっ」 「ははっ」 「かしこまりましたっ」
「もう大丈夫だっ」
「我らの軍が前に押出し、ウタ族達を蹴散らす!」
程なくしてカコウがやって来た。
バシャ バシャ バシャッ
泥水をかぶりながらカコウが言った。
「ヒエンッ! 良く来てくれた」
「カコウ! おぬしは無事なのだなっ」
「族長は! 族長はどうしておられる?」
「ウタ族の投石を頭に受けて気を失っている」
「打ち所が悪かったのか白目をむいて口から泡も噴いている」
「早く手当をしなければ危険な状態かもしれない!」
「まさかここウタ族の村で族長を失う事になるとは… 」
ヒエンがカコウの言葉を制して言った。
「何を馬鹿な事を言っている」
「今は安全な所まで退却して
族長の手当てをすることが優先だっ」
「こんな所で族長を死なせるわけにはいかん」
ヒエンは手短に退却の戦術をカコウに伝えた。
「我らの軍とリコウの軍は鳥の翼の様に左右に広がり
ウタ族の横からの攻撃を阻止する」
「そしてその状態のまま前進して行く」
「我らの軍が前進して行く速さに合わせて
密集隊形を取った族長の軍は後退させていってくれ」
「左右に広がった我らの軍が完全に前面に出て
密集隊形の族長の陣が後方に抜け出たら」
「泥の河から出て陣を立て直してくれ」
「川の中ではウタ族の方が有利に戦える」
「カコウが川岸で陣を立て直した時点で
我らも押出していた陣を退却させる」
「陸上の川岸で合流して
そこから一気に大河の下流の後陣まで戻る!」
「どうだっ! この計画で! 」
カコウが大きくうなずいた。
「よし 分かった!」
「前陣と後陣、その連携がカギだな」
「では始めるぞっ!」
「おうっ!」
ヒエンが叫ぶ。
「全軍に指示を出せっ!」
カコウも叫ぶ。
「太鼓を鳴らせ―っ」
ドン ドン ドン
一瞬冷たい空気が流れ、ゴ族の旗がはためいた。
バタ バタ バタ
ヒエンは後陣に戻り号令をかけた。
「いざ! 出陣ーーっ!」
太鼓の音を合図に全軍が動き出した。
ヒエンの陣とリコウの陣は左右に広がって行った。
ドン ドン ドン
リコウの背中に縛り付けられていたマックが言った。
「リコウ殿、ウタ族との全面対決が始まりましたな」
「この戦いはゴ族に利はありません」
「戦いの途中、頃合いを見て逃げ出した方が身の為ですぞ」
リコウは黙って背中のマックの言葉を聞いていた。
ただ太鼓のリズムに合わせて
自身の陣を動かしているだけだった。
太鼓の音の合間を縫ってヒエンが叫んでいる。
ドン ドン ドン
「横に拡がれ――っ」
「翼を拡げる様にしてウタ族を取り囲むのだ――っ」
ポッ ポッ
ヒエンの兜に雨粒が落ちた。
雨が降り始めた。
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