先日、仕事中に電話が鳴りまして、出てみると前の会社の上司の方でした。

「久しぶりやね~、元気にしとるかぁ~?」

「お久しぶりです。お陰様でなんとかやってます。」

「ところでKOASA。くん電車好きやったなぁ?」

「はい。」

「君んちからあと20分くらい山に入ったところに◯◯って集落あるやろ?」

「はい。」

「そこの家買わへんか?」

自分が鉄道好きなのを確認されてからの不動産の紹介ってのが引っかかりまして、もう少し突っ込んだ話を聞きたいと申し上げました。

物件のロケーションとしては最悪でして、最寄の駅までは車でも40分かかるような山奥です。

ただし、敷地面積は300坪ほど、うちの奥さん憧れの古民家で、しかも3年前にリノベーション済みとか。

希望なら裏山の土地もおまけで付けてくれるとか。

しかも、ローンが残っている今の家と交換で構わない、登記の費用もあちら持ちとか。

率直な感想ですか?

「怪しい。」

恐らく皆そう感じるでしょうなぁ。

なんか出るような家はご勘弁ですよ、なんてかわそうとしたんですが、この元上司さん、畳み掛けるようにこう続けました。

「ところがやKOASA。くん。この物件は君やないとあかんのや。オマケが問題やねん。」

「はぁ」

「ワシは詳しないからわからんのやけどな。ここの爺さんがもと国鉄の職員なんやけど、デカいSL持っとるねん。」

意味が分かりません。
SLを持っている?
山奥で?

確かに、蒸気機関車が全廃される頃、国鉄からの払い下げの蒸気機関車が、全国の学校や企業、そしてちょっと変わった個人の手に渡り保存されたと云う話は聞いたことがあります。

しかし、現住地の近くにそんな愉快なものがあるのなら、先ず私の耳に入るはずです。

「その爺さんがもういよいよ足腰が立たん様になって来ててな。山やらの手入れはどーでもええんやけど、そのSLの管理が出来そうな若いのを誰か紹介してくれへんかとワシんとこに相談しに来よったんや。」

なんとも胡散臭い話です。
にわかには信じられません。

で、試しにカマをかけてみます。

「そのSLとやら、名前は何て言うんですか?」

型式とか言うても伝わらないでしょう。

例えば、デゴイチとかそんな回答を予想していたのですが、元上司さんはとんでもない事を話し出します。

「ほら、あのコンビニで売ってるアイスみたいな…えーっとし、し、し…」

「シゴナナですか?」

「ちゃうちゃう!シロクマやのーて、シロ、シロ…」

「まさかシロクニって言わはったんですか!?」

「そう!それ!シロクニ!!さすがやねっ!!」

いやいやいやいやあり得ません。

C62は全国に5輌しか残っていない事、しかもそのうち3輌は京都で残りは名古屋と北海道にある事を丁寧に説明したんですが、元上司さん、シロクニで間違いないと譲りません。

買うかどうかは一先ず横に置いておいて、信じられへんねんやったら今日の晩か明日にでも見にくるか?とのお誘い。

C62はあり得ないとしても、自宅の近くになにがしかの蒸気が保存されておるのならば、やっぱり見たいやないですか(笑)

ちょうど仕事を切り上げるつもりの時間でしたので、今から伺いますと返答し電話を切りました。

さてさて、お仕事の片付けをマッハで済ませて自宅近くへと車を走らせます。

とにかく見せてもらう事にはなったものの、そんなブツがあるなら噂が立ってもおかしくありません。

到着したら「残念でした♪」なーんてからかわれたりする事態も想定しつつ、待ち合わせ場所へ。

そこには久しぶりにお会いする元上司さんと、ひと目見て後期高齢者と分かる風貌の男性が立っておられました。

「君がKOASA。くんやね?よう山奥まで来てくれたね。」

老人はそう言って握手を求めて来ました。

「いや、買うとは決めてませんよ。一先ずほんとにC62があるのか確かめに来たようなものですから。」

出来るだけ失礼の無いようにそう伝え、さらに林道を案内された先に、明らかに不釣り合いなトタン葺きの巨大な小屋が姿を現しました。

ちょうどだんじりやお神輿のしまってある倉庫を思い浮かべていただければ分かりやすいと思います。

「鍵を開けるでのぅ、かんぬきを頼むわな。」

老人は優しい口調でワタクシにそう指示すると、ポケットから鍵の束を取り出し、大振りな南京錠を開けました。

自分がかんぬきを引き抜き大きな両開きの戸が開いたその先には、絶対にあるはずのないアノ顔が…。

「C…62…?…!…4!!」

確かにそうナンバリングされたナンバープレートが、煙室扉に誇らしげにかけられています。

どうやらこの巨大なカマはC62の4号機のようです。

4号機??

「これは事故に遭うたカマでな。」

そう、そのカマの事なら知っています。

あの特急“かもめ”を牽引中、米軍のトレーラーと衝突し横転事故に遭った後、ボイラーが更新されることも無く廃車になった機体です。

「機関区の助役が捨てるって言うもんでな。まだ生まれて10年ちょいのコイツが鉄くずになるのがどうにも不憫でな。」

とにかくどう見てもC62です。

1/150でも1/80でもない、間違いなく1/1、もといホンマもんのC62です。

目の前に居るこの老人の話が本当なら、もう50年近く、この地に鎮座しておる事になります。

「ワシはあまり社交的な方ではないからの。ここにこのカマがおる事がバレて子供やらマニアやらがやって来てもよう相手出来へん。せやから黙ってこっそり磨き続けてたんや。もともと触ってた(※整備していた)カマやから、ええとこも悪いとこも全部分かっとるんよ。」

聞きたい事が山盛りあります。

どうやって引き取る事が出来たのか?
家族は反対しなかったのか?
そもそも事故現場の岩国なり最終所属の下関なり、そんなところからここまでどうやって運んで来たのか?

あり得ない事態に呆然としつつ、冷静になる様につとめているところ、この老人はこう続けます。




















「今日は4月1日やのぅ。なぁ若いの。」


よし、今年嫁さんに仕掛けるエイプリルフールのネタはコレで行こう♪

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コメント(2)
まみむめモ系
騙されました!

読み行ってしまいました(._.)すごい文才ですね!

私は嫁に「あ、ゴキ○リ」→「キャー」くらいのものでした・・・

私も来年までに腕を上げたいものです。
2017/4/5(水) 午前 7:38
<<返信する
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KOASA。
> まみむめモ系さん
こんにちは♪

毎年3日ぐらい前からネタを考えています。
自分でも何故か分からないんですが、エイプリルフールは全力を挙げてしまいます。

でも今年はすぐに見破られてしまいまして、今年は失敗に終わってしまいました…。
2017/4/5(水) 午後 1:19