29歳、教員(講師)辞めて木こりになろうと決意する。しかし何をすればいいか分からない。
そんな暗中模索の中、山学校というものが耳に入り参加することにした。
そもそも山学校とは一体なんなのか。
山は間伐をして整備をしなければ良質な材が取らない。しかし人手不足により手が届かず、山が荒れてしまっている現状がある。荒れることで材の価値は下がり、さらなる人手不足を生む。
山学校はそれに歯止めをかけようと持ち上がったプロジェクトの一つだ。
山が身近にあるけど、自分では間伐がやりたくてもできない。そんな人たちを募って、プロが安全な知識や方法を提供する。
地域の人々が自分たちの山を守り、これからの人たちへと整備された山を橋渡しをしていこうというものだ。
そんな山学校は午前9時、とある地方の山の中でスタートした。
参加者は十数人。木が切りたくて仕方ないのか、みんなすごーくニコニコしている。そして笑顔の下には熟練した空気を醸し出している。
初心者は私くらいだろう。来るところを間違えたという思いに駆られるが、ここは知らない山の中、もう逃げられない。
作業内容は参加者それぞれの段階に合わせて行う。間伐、枝打ち、木登り、間伐に伴う様々な方法(ワイヤーで引っ張りこんだり何だかんだ。見ててもよく分からない。)などであった。
その横で、超がつくほどの初心者である私はひたすらチェンソーを研いでいた。基本にして重要な作業なのだと教えてもらうが、かなり地味である。
倒木の激しい音と歓声を横目に、ひたすらチェンソーの刃を研ぐ。
道具は丸棒のヤスリ。
文章で説明するとまどろっこしいのだが。
刃の形に合わせてぴったりとヤスリを合わせる。指先の感覚だけで数ミリの調節しなければならない。
肘から指先を固定。肘部分だけを動かし直線的にブレのない動きで研ぐ。指先がぐらついてブレることを防ぐ。それにより刃が丸まらず、ギラッとした切れるものになる、などなど、、
とにかく難しい。
どこでうまくいって、どこで間違っているのか自分自身では検討がつかない。職人さんに指摘されても気のない返事をするのが精一杯だった。
なんとなく分かったのは音の違い。
自分がやると、金属の擦れる不快な音がでる。職人さん研ぐとシュワッと細かい泡が弾けるような気持ちの良い音がする。
この音になるのはいつなのだろう。
はやく研げるようになりたーい。色々なことに焦る気持ちが押さえられない29歳の夏だった。
初参加の山学校はこうして時間が過ぎてゆく。
つづく

