東京という都会にすみ仕事をしている人々が感じる不安やストレス。それを癒してくれる隠れ家的な場所を見つけ、一息つき、またあらたな日々に向かい合っていく人々を描いた連作短編集。
ネットでショッピングモール、パラウェイ、を運営する会社。そこに入社したものの、最初の配属が物流倉庫だった若者、矢作が、最初に登場。運良くマーケティング部に移動したものの、生来の真面目さが周囲の反感を買い、悩む。目立たない同僚が昼休みに出掛けるあとをつけて、見つけたのが、プラネタリウム。昼すみに、星空を見て過ごすひとときが彼には救いとなる。
中途採用でマーケティング部のマネージャーを勤めるママ社員の恵理子が、次の主人公。家庭では年下の夫や二人の男児に、会社では上層部とパート従業員との板挟みになる中間管理職の彼女は疲弊していた。ある日、通勤電車を乗り過ごし、終着駅の新木場へ。思いきって、会社をサボり、近くにある夢の島公園ですごし、命の洗濯をする。
恵理子の大学時代の友人の一人、大森智子。その息子、圭太は高校に入学したものの、中学時代のいじめっ子に再会し、また辛い日日になる。好きなファンタジー作品の女主人公にそっくりな女性を街で見かけ、あとをついていくと。ボクシングクラスのインストラクターだった。進められるまま、運動音痴だった彼は、ボクシングをやり始める。弱虫の圭太が変わる。
恵理子の大学時代の友人の久乃は、仲間で唯一、いまだに独身。カフェチェーン店に、バイトからはじめて、今は小さいながら新橋店の店長。時代の流れに逆らい、あえて全席喫煙可の店にして、そこそこ常連客をつかむ。実家の母親や友人たちからは結婚を進められているものの、彼女はなぜか男女のごとに興味が湧かない。彼女の趣味は美術鑑賞。お気に入りの場所は、皇居に隣接する東京国立近代美術館。最上階にある眺めのよい部屋。展望休憩室。
映画会社から転職してきた瀬名。自分ではなにもしないで、人の後始末をそつなくこなして生きてきた彼。彼のお気に入りの場所は、喫煙ができる久乃の店と、品川にある水族館。特にクラゲがお気に入り。餌に向かって泳いでいくことができず、偶然触れた餌を捕まえて生きているクラゲに魅了された。そんな彼も、矢作からクラゲの話を聞いて、生き方を変えることになる。脳も心臓も血液もないクラゲは、その実、身体全体が脳であり、心臓だという研究があるのだと。社内で起きたセクハラ事件。上層部の反対に逆らい、真相究明に協力すると言い出す瀬名。
社内では目立たない神林璃子の昼休みの楽しみはプラネタリウムで眠り、亡きいとこに再会すること。他にも、無料で利用できる上野公園のはずれにある国際子ども図書館がある。休日には朝から一日過ごす。閲覧室はかつての帝国図書館時代の貴賓室で、内装が素晴らしい。
彼女には幼い頃に誘拐されかけたことがあり、それがトラウマとなり、男性に近づけない。さらわれかけたのは、彼女が目立つ少女だったからと、周囲に言われて、以後どこでも目立たないように努めてきた。お気に入りのカフェでも、自分が認知されたら、行けなくなる。
プラネタリウムでの眠りができなくなったある日、そんな彼女を心配した矢作が近づいてくる。誰にも話したことがないトラウマを打ち明けた璃子。彼女を尊敬していたという矢作の言葉に癒される璃子。矢作にもトラウマがあった。地球自体が恒星である太陽のまわりを回る惑星、つまり惑う星なんだ。そんな話を矢作から聞かされる。周囲の世界は自分とは無関係なんだが、それを考えてしまう自分。自意識過剰も承認欲求も、周囲の世界が自分とは無関係だと認めたくなくて、悲しくて、悔しくて、腹立たしくて、生まれてくる感情なんだ。背負い込むことは依存してるのと同じだと。地球同様に、そこにいきる我々もみな、不完全な存在なんだと。そんな矢作の言葉に癒される璃子。亡きいとこを見送り、あらたな人に目を向けようとする璃子。