ヤッさんシリーズでお馴染みの原さんの新作。女版ヤッさんとも言える鮨職人まさよが、全国のあちこちの店に間借りして、安い価格で、高級鮨店並みの握り寿司を提供する。そんな彼女の近くで、挫折しそうな人がいると、なにかと世話をして、立ち直らせていく。まさに、ヤッさんと同じことをしている。

スペインのバスク料理を日本で普及させようと店を開いた椋太。開店して評判になった直後に、コロナ騒動になり、売り上げは落ち、将来に不安を感じた椋太は、最初の志を忘れ、安易に店を変えようとする。一緒に店を始めた妻とも疎遠になり、店の危機と夫婦の危機を迎えた彼らの前に現れたまさよ。夜に開ける店だから、昼過ぎまでは空いているから、その時間だけ間借りで鮨店を開きたいという。

そんなまさよをかいして、椋太は料理人としての心得や仕入れ先にじかに足を運び、材料を吟味するという基本に気づいていく。

椋太たちか立ち直ったとき、まさよは新たな土地へ移っていく。


能登産の栗を使った、金沢の洋菓子店を引き継いだ東京帰りの陽菜。中小企業ながら、製造部と販売部の対立に悩む。売り上げの悪いプリンを改良したいが、職人は話も聞いてくれないし、逆に販売部の若手は東京進出により、店を発展させようと企てる。両者の板挟みで悩む陽菜。しかし、そんな陽菜さえ、基本のことがわかっていなかった。それを教えてくれたのは、なき父が気に入り通っていた間借り鮨まさよ。

子供の時以来ご無沙汰な栗の産地に、まさよにつれられていってもらった陽菜は、新たな発見をする。父親の影でなにもしていないと思っていた母親が実は、父親の補佐として、深く店に関わっていたことに気づいた陽菜。

父親の意思を受け継ぎ、店を引き受ける覚悟を決めた頃、まさよはまたどこかへ行ってしまう。

東京で高級焼き肉チェーンを経営し、一時は羽振りもよかったが、コロナで倒産し、莫大な借金を抱え、自己破産して、故郷の千葉半ばの漁師町に帰ってきた晃成。今は老いた夫婦が営む漁師相手の食堂四方田食堂。懐かしくて、つい入ってみると、見知らぬ女性がいる。食堂は漁師が帰ってきて朝食をとるだけの店だから、昼前には閉める。そんな食堂の夜間だけ間借りして、寿司屋をしているまさよだった。

自己破産の負い目を引きずり、料理はできても、客相手の経験がなく、客の気持ちを考えたこともない晃成。実家の母に出した料理さえ、心がこもってないと言われても、訳がわからない晃成。

老夫婦に代わり、四方田食堂を引き継いでもらいたいという周囲の期待と、料理人としての自覚がなく、自信が持てないことに悩む晃成。

そんな彼を後押ししてくれるのは、老夫婦の孫娘、漁師をしている姉の友人、そしてまさよ。

食堂を引き継ぎ、そこを漁師たちの支援所としてもり立てようと、晃成が決意したとき、まさよはまたもその地を離れる。


ヤッさんシリーズみたいに続編が出るのかな?出たらまた読んでみたいな。

ヤッさんシリーズの完結編も出ているらしい。主として、文庫になってから読んできたから、完結編の文庫はいつ出るのだろう?すぐに読みたい気もするし、もう少しあとの方がいいかと思ったり。