小説現代長編小説新人賞を受賞した、この作品で2023年にデビューした新人作家さん。

息子に手をあげた夫に我慢できず、離婚して、息子と暮らすシングルマザー綿来千晶は、夫からの息子との面会要求を無視しながらもいらついていた。パート仕事で息子を育てる不安も消えず、悩んでいた。母親がなくなった実家で暮らす彼女は母親の墓参りにいった時に、にわか雨にあい、雨宿りで偶然、墓場の事務所に足を踏み入れる。

そこで出会った若い男と話が弾み、いつか愚痴をぶちまけていた。そんな若者、日置凪は、帰る千晶に不思議な朝顔の種をくれる。うるうの朝顔。余分なものだが、それがあることで、ズレを直してくれるうるう。人生に起きたわずかなずれ、それにより以後の人生が少しづつ食い違って不幸を呼ぶ。

説明書通りに、感情がこもった器と土壌と液体を揃え、そこに種をまく。寝るときに枕元に置いておくと、睡眠中に夢を養分にして成長し、過去を追体験できる。そのどこかで一秒だけ、うるう秒が挿入されたり削除される。朝顔が閉じると終わり、目を覚ますとズレがただされる。

千晶は幼い頃に見聞きしていたことを勘違いして、以後考えないようにしてきた。ズレがなくなり、それを直視できるようになり、気持ちが心が安定する。


うるうの朝顔はもともと凪が友人からもらったものの、嫌なことがあった過去を封印していた凪、預かった種を結局、墓場で出会った他の人々にあげてしまう。

それにより、救われた映画会社に勤める青年、過去の罪にとらわれていた老人、小学生女児。

最後に凪は、種をくれた昔の友人の死に、向きあうことを種に救われた彼らから教えられ、故郷に向かい、過去を直視することに。

少し不思議だが、なかなかよかった。