予想通り、読みごたえがある作品だった。

マーケティング会社で、エリート社員として最年少の管理職として、がむしゃらに仕事をしていた大崎雄哉。母を幼い頃になくし、再婚した父がすむ実家にもあまりいかず、独り暮らしをしていた彼のもとに知らせが届く。ロンドンで一人暮らしをしていた大伯母、笠原玉青から、国内にある不動産が遺産として残されたと。

顔も覚えてない母方の祖母の姉に当たる大伯母。しかし、都内の一等地にある西洋館を見た彼は、転売目的で受け取ろうとする。

少し古びた西洋館、十六夜荘はシェアハウスとして、貸し出されていた。四人の住民は定職もない奇妙な連中だった。

折しも、些細なことで会社をやめることになった雄哉。新たな仕事もできないまま、屋敷を相続して、転売しようとしたら、登記上、所有者は大伯母と、もう一人中国人らしき名前が書かれてある。

誰も知らないその中国人を探そうと、ほとんど知らなかった大伯母の過去を調べ始める雄哉。

作品では、そんな雄哉を描いた章と、大伯母の戦前から戦後の様子を描いた章が、かわりばんこに描かれていく。

日清日露の戦争で手柄をたてて、男爵に叙爵した祖父の孫に当たる玉青の兄は、若くしてあとを継ぎ、軍人として海軍省に勤務。西洋音楽が好きでビアノも弾く兄は、自由思想の持ち主で、屋敷の離れを友人の画家やその仲間に解放して、アトリエにしていた。

そんな屋敷にも戦争の影が差し込み、苦難が待つ。兄が戦死して迎えた戦後、家族の屋敷や土地は米軍に接収されたりして失う。笠原家は銀行を通じて謎の人物に売り払われ、後に玉青により買い戻されたと言う。親戚の中でも変人として異端視された玉青。玉青という女性はどんな人だったのか?

雄哉は次第に大伯母のことが知りたくなり、興味を募らせていく。

結果、大伯母の屋敷であった十六夜荘にかける思いが、それを相続することで、雄哉に残された遺産がどんな意味を持つのかに気づき、新たな生き方を始める雄哉の再生を描く作品だった。