五十代の翻訳家由々は、知人に頼まれて借りた仕事部屋で、ある夜、偶然ひいた曲をきっかけに、小学校五年の時の、ある夏の日を思い出す。

雑誌で見かけて絵にした洋服を母親につくってもらい、お気に入りとなった黄色い草の花のワンピース。

夏休み前の合同音楽祭で知り合った別の学校の五年生、れい子ちゃん。別れるとき、会いに来てと言われてうれしかったゆゆは、夏休みの初日にお気に入りのワンピースを着て、ほしいなと言われた手作りのしおりをもって訪ねていこうと決めていた。

その日が今も鮮やかによみがえる。電車で一人別の町まで出掛け、やっとたどり着いたれい子ちゃんの家。しかし、彼女は会いたくないと言った。

心待にしていた夢のひとときが、一瞬で消え、呆然と近所を歩き回ったゆゆ。

様々な人と出会い、見知らぬ町を見て帰宅したゆゆ。そんなゆゆをみて話しかけてくれたのは、大学生のイケメンだった。姉のななの家庭教師となるはずだったいとこに用ができて、代わりに来てくれたいとこの友達。そんなお兄さんと、持っていた本の登場人物のことを話したりできたこと、さらには、こんなことを話してくれた。思った通りにいかなくて、がっかりしたり、悲しくなったりすることがあったとしても、そういう日には、楽しいことだらけだった日にはない良さがね、あるのかもしれない、と。

お気に入りのワンピースを着れば、何かいいことに出会えそうな気がしていたゆゆだが、少し落ち込んで帰宅したゆゆには、お兄さんとの出会いが素敵なことに思えてきた。


そんな由々はお気に入りの喫茶店で、なんと思い出のお兄さんと同じ名前の青年と知り合う。店主の甥っ子で教師志願。読書好きで、ゆゆの翻訳書も読んだことがあると言う青年と仲良くなる。

五年生の時の冒険を追体験しようと、あの町を訪れた彼女はなんと青年と再会する。そのきっかけは、昔偶然見た写真家のふるさとを撮った写真だった。

思い出にリンクする夏の日の出来事。なんと最後には、一番がっかりしたれい子ちゃんから手紙が届く。読み終えて、翻訳書の訳者略歴を見て、昔、音楽会で知り合ったゆゆとわかり、あのときの対応を詫びる手紙だった。

最後にはいいことがある、お兄さんの言葉に嘘はなかった。あの夏も今の夏も同じように、最後には素敵なことがあったんだ。


主として、児童書作家だと思っていた高楼さんは、翻訳家でもあった。もしかして、ゆゆは、高楼さんの分身かな。

とにかくよかった。