戦前のパリにあり、数々の文学者が集い、ジョイスの『ユリシーズ』を産み出した伝説の書店。それが、シェイクスピア&カンパニー書店。ナチスの侵攻で閉店した店名を引き継いで、戦後にできた2代目のシェイクスピア&カンパニー書店。アメリカ人のはぐれものホイットマンがセーヌ川をはさんで、ノートルダム大聖堂に向かい合う建物のなかに英語書籍の店を開き、のちに、尊敬する初代の店長ビーチと交流があった彼はビーチの死後、1964年に店名を引き継いだ。
ビーチの文学への愛、作家に帯する支援の精神も受け継ぎ、彼の店にも様々な文学者が出入りし、朗読会も行われる名物書店になった。しかも、店内に狭苦しいベッドがあちこちに置かれ、行き場のない貧しい物書きや若者が無料で泊まれる場所にもなっていた。
コミュニストを自認するホイットマンは、見知らぬ人に冷たくするな、変装した天使かもしれない、というモットーで、書店を装った社会者義的ユートピアをつくった。
著者、ジェレミー・マーサーは、カナダで犯罪記者をしていたが、のっぴきならないトラブルで、海外へ飛び出し、パリに流れ着いた。人生の目的も休む場も食べるものもなくなった彼は、偶然入ったこの店で居候することになる。2000年初頭から数ヵ月の、彼の滞在中の出来事を描いた本書。
ホイットマンをはじめとした店にいる居候たちの奇人ぶりは、読んでいて、まるで小説のように面白い。特に面白いのはやはり、当時86歳だった店主のホイットマンかな。その奇妙に魅力的な人物像が面白いし興味深い。著者の自伝だけでなく、ホイットマンの自伝的な面もある。