中身が気になりながら、なかなか読めず、図書館で何回も借り直していた本書をようやく、目を通した。
サブタイトルに、人はなぜ移動するのか、とある。
著者は世界でベストセラーを何度もだしているスウェーデンのジャーナリスト、作家。故国で、もっとも有名な旅行誌の共同創業者の一人でもある。
インドを中心に、世界各地をバック・パッカー、ヒッチハイカーするだけでなく、時にはバスや列車を利用した旅も行う旅のエクスパート。
その経験をまとめたのが、本書と言える。
著者によれば、一万三千年前まで、私たちは遊牧民だった、と。一ヶ所に定住することなく、大なり小なり、移動して生活していた。
だから私たちの遺伝子には、旅心もあるかもしれない。
地平線の彼方へ行ってみたい、旅をしたいと言うのは、遺伝に基づく衝動であり、その希望は普遍的なものだと。
日常では見られないものをみたい、体験したいと言う思いは、誰にもあるもので、それが叶わないなら、せめて、そうした旅を記録したものを読みたいと願う。古代の本はどれも旅日記だったともいえる。
世界では多くの人々が旅をして来たが、近年はその隆盛とともに、旅の欠点も論じられるようになってきている。飛行機などによる環境破壊の問題。
旅に出て、見知らぬ人々に接することで、自分達が持っていた自尊心が抑制されるかもしれない。
メディアを通じてしか知らなかった異国や異国の人々、じかに接することで、印象が変わるかもしれない。旅は世界観の拡大に寄与する。ただし、じかんをかけて、現実に向かうことが大切だ。
旅とは、未知の音、噂、慣習と相対することだ。当初は不安を感じ混乱しても、旅により、ひとつの問題にも解決法が何種類かあることを知って、心が落ち着くようになる。
変化がなければ心は消耗する。だが新たな見方をするようになれば、新たな展望が開ける。旅をすれば感覚が研ぎ澄まされ、世間や家庭内の状況にたいして注意深くなる。今まで無関心だったことにも、不意に何かを感じるようになるのだ。今まで見えていなかったことが不意に見えてくるのである。
著者は前書きにそうのべている。
以降、十八の章で、様々な旅の体験談を語っていく。
著者が第二の故郷とも思える地は、インドの都市ムンバイだという。何度も訪れてるのにうむことがないと。リピーターになるとは、広い視野を持つこと、連続性を保つこと、何事であれ維持することだと。一見、新しい発見を諦めているように見えるが、実は繰り返すことでも新たな発見はあるものだ。
旅は、私たちがホモサピエンスであることと関連がある。好奇心だ。無用な知識を求めて努力し、知恵を拡大し、視野を広げ、世界像を拡大し、混沌を整理し、秩序を確保しようとする意思である。
ヒッチハイカーであるトマス・レクストレームは、著者の旅行誌への寄稿文で、そうのべている。なぜ私たちは旅をするのか?という疑問への回答として。
なかなか興味深いものだったが、ただ、ヒッチハイクとかバックパックとは、無縁の私には、いくぶん、物足りなさも覚えた。