遺品博物館は、故人の遺品を収蔵する博物館。生前に収蔵を申し込むと、学芸員と名乗る吉田が、面会し、故人の生涯などのことを詳しく聞き出す。さらに関連した事物についても調べる。
そして、申し込み者がなくなると、訪れて、遺品の中から一点だけを選び出し、持ち帰り収蔵する。その選定の基準を詳しくは誰にも語らないものの、ひとつだけ挙げるのは、故人の人生において、重要な物語に関わるものを選ぶのだという。
こうして、博物館に収蔵されることになる遺品にまつわる故人の物語を描き出す短編がならぶ。
田舎の古民家に住んでいた老女の遺品は、寄木細工の秘密箱。
医者の家系に生まれ、有数の医療法人を作り上げた老人の遺品は、幼い娘を描いた絵だった。
人気のイラストレーターの遺品は若き日のライバルからの手紙だった。
若くしてなくなった女子高生の遺品は、なくなる前に親しくしていた男子校生が発表した二人を描いた小説だった。
駄菓子屋を営んでいた老女の遺品は、住所録だった。
交通事故で死んだ少年の遺品は絵が好きな祖父が金魚を描いたビニール傘だった。
若くして引退し引きこもった大女優の遺品は、高校時代に使っていたトランペットだった。
才媛だった女性の遺品は、思い出のカルチャーセンターで作ったフェルトの猫だった。
一見なんでもないものにも、故人にとっては大事で、その人生にまつわる物語を語るものがある。そんな特別なものを収蔵する遺品博物館。実際にあるのかどうか?でも、物語を知らずに見ても、何も感じないのでは、来館者はいるのか?