久しぶりに、一気に最後まで読めた。
スポーツ関連会社に勤める泰介は、定年間近に異動となり、データ処理ばかりのつまらない仕事に嫌気がさしていた。慣れないパソコン処理にも苦戦する毎日。自宅には80歳になる母親がいるが、今は認知症で話が通じないことが多い。幼い頃からバレーボールを母親から特訓されてきた泰介だが、大学時代に、自分の力量にあきらめ、就職した。バレーボールを介して結ばれた妻とのあいだに生まれた娘は高校2年、バレーボールのエースとして活躍してる。
東京オリンピックを来年に控えたある日、テレビのオリンピック特集を見ていた母、万津子が、私は…東洋の魔女、泰介には秘密、といった意味不明ながら、気になる言葉をつぶやくのを聞く。
前回の東京オリンピックの時には、泰介も弟もすでに生まれていた。そんな母が選手だったとは思えないが。
九州から子供二人をつれて上京してきた母親。母からは当時のことも母の故郷のことも全く聞いていない。母がどんな過去を持っていたのかを知らないことに気づく泰介。
その後、2019年の現在の泰介と家族の物語と、1958年以降の万津子の人生が交互に描かれていく。
九州から上京して、尾張一宮の紡績工場に就職した万津子。バレーボールで頭角を表していたものの、19歳で、故郷で見合い結婚したものの、夫を暴力をふるい、酒浸りだった。当時は寂れつつあった炭鉱、労働争議で苦労した夫には、それがはけ口だったのだろう。
事故による爆発で夫をなくし、実家の農家に戻ったものの、肩身のせまい暮らしだった。一番の問題が泰介だった。わがままで協調性がなく、いつも周囲ともめる。近所の子と川で溺れかけ、3歳の泰介は助かるが7歳の友人は溺れ死ぬ。それがきっかけで半ば村八分となる万津子親子。
東京オリンピックのテレビ中継を見たことから、かつて打ち込んだバレーボールを思いだし、泰介を立ち直らせるために、自分ができることはバレーボールを教えることだと決意する万津子。
二人の子供をつれて上京して、喫茶店の住み込み店員となり、泰介のバレーボールのコーチとなった万津子。
大学時代に見切りをつけてバレーボールをやめた泰介を母はどう思ったか?
会社のストレスを家庭に持ち込み、介護してる母にもあたる泰介に、娘はテレビで見たといって、大人の発達障害ADHDについて、説明してくれる。お父さんも一度医者に診てもらったらどうかと。
自分達の捨てたバレーボールの夢を歩む娘の言葉を無視はできないと、勇気を奮って診察を受ける泰介。
やはり、本当だった。薬を処方され、生活態度を改めることで、家族との絆は修復されていく。
そして気がついた。幼い泰介に母親がどれだけ悩まされ苦労したのかを。鬼コーチとしてバレーボールを教えてくれたのも、そのためだったんだと。どんなに苦労しても泰介を見捨てなかった母親の愛情に今更ながら気づく泰介。
春の高校バレーボール決勝戦で見事勝利した孫娘の活躍を確かめてから、静かに旅立った万津子。
タイトルはよくわからないが、泰介の夢想にあらわれる五輪の輪のことか。二つの東京オリンピックの五輪が二つで、十の輪。