タイトル作を含む六編からなる短編集だが、すべてに共通するのがタイムスリップとか時間旅行と言われるもの。SFのように、そのやり方がまことしやかに説明されることはなく、物語の中に登場するだけ。
時代は戦前と言うことも共通するか。最初の編では、ある夜隅田川の上空に現れた光ったものが川に落ち、そこに素っ裸で記憶をなくした男が出現する。彼を診察した当直医の話として物語は進む。どうやら男は未来からやって来て、事故でその時代に落ちたらしい。東京大空襲を知っていて、知り合った医師にその時間避難するように忠告するも、信じなかった医師は家族を失う。戦後、引退した医師は事故で死にかけた男と再会する。
戦前にあった上野の京成線のトンネル内にあった駅。そのあとを探検しにいった少年二人は、終戦直後に行き着いてしまう。そして、そこにいた不良少年たちのために、一人は人質にされ、一人は貢ぎ物をとってくるために現代に戻るも、怖さから戻らずに、友を見捨ててしまった。その後の人生はそのせいか、波瀾万丈となる。
母子家庭の少年が母の帰りが遅くなる夜、図書館で待つことになるが、思わぬ大雪で、母の迎えもなく、人気のない図書館に閉じ込める。そんな少年の前に現れた男。暖をとり、本を読んでくれ、将来への心構えを教えてくれた男は翌朝には消えていた。
実はその男は少年の成長した姿だった。
タイトル作の第三編。
第四編はルネサンス時代の北イタリアにこつぜんと現れ、錬金術師としても芸術家としても有名だった男の作品。殺人事件の犯人として処刑された男は、殺していない、五百年後の未来に送っただけだといった。五百年後の現代に、その作品の中から現れた男が殺人事件を犯す。
奇妙な物語。
第五編は戦前の大連のホテルで行われた天才ピアニスト歓迎会に出席することになった男女の旅行者。その体験を公表しないと言う約束を破ったために、過去の時代に戻され、閉じ込められ、連れの女性の殺人犯にされてしまうと言う、少し怖い話。
最後の第六編は、過去に戻り、大戦争のきっかけを消すことで、別の歴史に変えようとした男女。その途時に知り合った満州に暮らす若い女性を思うあまり、任務遂行後、過去に戻り、彼女を助けにいく青年。
あまり読んだことはないが、佐々木さんってこんなものを書く人だとは思わなかったので、少し驚いた。警察小説をかなり書いていて、ミステリーとか冒険小説風の作品を書く人だと思っていたが。