東京築地に住む新橋芸者のまり勇を主人公にした連作ミステリー短編集。
海外ミステリーが好きな若手の芸者まり勇が、身近で起きた事件に関わり、推理を広げるという趣向の話だが、必ずしも名探偵とも言えない。ユーモアミステリーに近い感じか。
第一話は、まり勇の先代が、朝鮮戦争の頃に経験した出来事が描かれる。川向こうの癌センターがアメリカ軍の病院に接収されていた。次々と運び込まれる傷病兵を収容する場所がなく、築地にある古いビルの半地下の部屋が、病室として使われていた。半地下のため、唯一の窓は外の通りの地面すれすれのため、締め切ってあった。その部屋に収容されていた兵士の一人が、息苦しくて、命令に反して窓を開けたところ、通りがかった女性のスカートの中が丸見えになり、興奮したという。一方、その部屋に気づいた芸者たちは兵士たちを慰めようと、窓にまで近づき、声をかけたりものをプレゼントしたという美談。芸者は着物姿の時には下着をつけない、というところがオチのようだ。
第二話以降の4話が、二代目まり勇の活躍。
まり勇たちをひいきにしていた政治家の運転手がある夜、主人を料亭に送り届けたあと、勝手に車を走らせて山あいの道で自殺する。睡眠薬をのみ、ガスを引き込んでの自殺。折しも政治家は収賄疑惑が出ていたために、警察は自殺を疑問に思い、捜査していた。運転手の背広のポケットで見つかった小さな三角の和紙。その正体に気づいたのがまり勇だった。歌舞伎の舞台などで降らせる雪だと。
それをヒントに捜査を進めて、ついに政治家秘書による殺人を暴く。
第三話では、まり勇の師事する躍りの師匠が突然やめると言い出し、後日その理由を聞きに出掛けた彼女は師匠が毒殺されているのを発見する。彼女の一足先に帰っていったオレンジの着物の弟子と、師匠が握りしめていたオレンジから、その弟子が怪しいと思ったが、警察の捜査で、思いがけない真相が明らかになる。
第四話ではまり勇と同輩の〆子が客に誘われて鎌倉へ出掛ける。フランス帰りのマダムと夫でシェフのフランス人が営むフランスの郷土料理屋で、食事をしたときの話。客がひいきにしていたマダムが加減が悪いと挨拶に出てこない。まり勇は、マダムがシェフに贈られたものの失くしたというイヤリングの片方を、スープの中で見つける。想像力豊かなまり勇は、あらぬ妄想をかきたてる。マダムは浮気のせいで、夫であるシェフに殺され、ウサギの肉だという料理に入っているのではないか?と。
庭の藤の木の下で見つけたと言って、イアリングを渡すことで、マダムも回復し、挨拶に来る。
第五話では、まり勇と〆子は、初めての海外旅行に出掛ける。ありきたりのツアーではつまらないと選んだのはポルトガル。そこで知り合ったポルトガル在住の商社員に聞いた流人島に興味を覚えて行くことにする。交通事故で死んだ西部劇俳優が、実は命をとりとめて、その島でひそかに余生を送っているという噂。
二人はその俳優ににた男を目撃するが、声をかけると、俳優の兄弟だという。しかし、その後彼が顔面に張り付けたお面をはずのを見かけるものの、その素顔は確認できなかった。本物か偽物か、明らかにしないまま話は終わる。