横浜のみなとみらいの万国橋、そのたもとにある淡いブルーの壁と白い格子の窓があるカフェ。店内の壁には一面にポストカードが貼られている。インテリアとしてではなく、心のこもった手紙として絵はがき。
当事者間だけで送る郵便だといつまでも残ることはない。だがこのカフェ宛に出された葉書は店内に貼られたものだけでなく、倉庫にしまいこまれたものも含めて、半永久的に保存される。見たければカフェを訪れればいい。いつでも見られる。ただし原則的に、持ち帰ることはdrきない。
新しい恋人ができて、過去を葬りたいと思い、やり取りした思い出のはがきを始末したいと来店した男に、店長は拒否する。やり取りした相手も同意するなら返してもいい。そうでないならダメだと。思い出は双方のものだから、片方の思いだけでは消し去ってはいけないものだと。
女子高の教師に届いたポストカード。最初は誰だったかわからなかった。やがてはじめて担任になった女子高生だとわかる。脳の腫瘍の手術をすることになり、もう会えないという別れの言葉を読み、気になる教師。やがて会うこともでき、実はカフェを通じて身近にいたことがわかる。
簡単な文章で心を繋ぐポストカード。カードに託した思い、託された思い。それらを通じて、様々な人生が交差し、ふれあう。
カフェを訪れる客にはそれぞれの人生があり、思いがある。同時にマスターや店員らにも秘めた過去と思いがある。
市街地再開発による地上げと、建物の老朽化により、マスターは閉店を決めるものの、常連客や客たちの思いを知り、続けていくことを決める。
確か一度は以前に読んだつもりでいたが、最初の方以外はほとんど覚えていなかった。心暖まる作品の著者として覚えていたからこそ、文庫になったこれを買ったのだが。やはり一度読んだきりではもったいなかったな。