上下巻合わせて、800頁もの大作。二日がかりでようやく読了。
なかなか読みごたえがあった。ミステリーでもあり、恋愛小説、師弟愛的な部分もあり、田舎町の真実を描いたものでもある。
作家としてデビューしたものの、第2作が書けず行き詰まっていたマーカスは、大学時代の恩師で、かつ作家の先輩として、デビューまでを導いてくれたハリーのもとに静養にいく。
そんなときに起きたハリーの屋敷の庭で見つかった白骨化した遺体。それが30年前に、失踪した少女ノアだとわかり、アメリカ北東部にある田舎町は騒然とする。しかも大学教授であるハリーが疑われ逮捕される。本人も当時、デビュー作の小説「悪の起源」執筆前の34才の売れない作家でありながら、15才の少女と恋愛関係にあったと告白したことで、ハリーは失墜する。
恩師の窮状を見かねたマーカスはハリー救済のために、締め切りの迫る出版社との契約違反を無視して、調べ始める。
一見平和で悪人などいないと思われた町の人々だが、調べていくと、隠されていた秘密が次々と明らかになっていく。
新たな容疑者が見つかり、ハリーは無罪となり、その経緯を描くことで作家として立ち直るマーカス。
出版社の戦略で大々的に売り出されたマーカスの第2作である「ハリー・クバート事件」は評判となるも、その後、事実確認に間違いが見つかり、マーカスは改めて調べ始める。無罪を勝ち取ったはずのハリーの様子もおかしい。まだ何か隠されたことがある。
二転三転する犯人、そして誰からも愛される少女だった被害者ノアの秘密が、ハリーの処女作の秘密が明らかとなる。身分違いの男女の往復書簡で描かれる恋愛小説についたタイトルの秘密。

スイスのジュネーブ生まれで、両親ともにユダや系ロシア人の血をひきフランスの血も引く作家の著者が、アメリカを舞台にした小説をフランス語で執筆した。この経緯も異色と言える。発売直後にヒットし、文学賞も受賞し、世界デビュー。主人公マーカスを彷彿とさせる著者。同じロシア系ユダヤ人である親戚がすむ舞台の地域にも毎夏訪れていて、土地鑑もあったらしい。
読み出すと途中で止めるのが辛くなることで、面白さは抜群に思える。
デビューを目指すマーカスに、先輩作家としてハリーが贈った作家になるための心得31箇条がなかなかいい。それは、作家だけでなく、一人前の男になるための心得でもある。十歳までに子供としての性格が形成され、二十歳までに大人としての人格が形成され、三十歳までに一人前の人間になれるかどうかが決まる。三十一才でクリアされた人間になるための心得。