少し古めかしい探偵小説という印象の作品だが、結構読みごたえがあった。プロローグでは大出版社に、伝説の編集者が訪れ、若い編集者に昔に経験したある事件を語るという体裁。エピローグでは、小説家志望の編集者に物語を託し、小説にすることを願い、この作品ができたという設定だ。
戦後十数年たち、高度成長が始まる直前の頃。人気ミステリー作家城之内は、もと子爵奥平家の敷地内に家を持っていた。落ちぶれた奥平家にとっては、城之内の借地料で生計を立てている格好。そんなある日、奥平家に来客があり、当主が城之内に立ち会ってもらいたい、という。一人娘の真優が呼びに来る。原稿ができるのを監視していた若き編集者の沢口も一緒にいて、同行する。
来客は奥平家のもと領地だった長野の清田村の村長と村会議長。国鉄が彼らの土地に、飯田と岐阜県の恵那を結ぶ鉄道を敷く計画があり、自分の村に通して駅を作るように陳情するために、上京していた。一緒に来た村会議員の原渕が行方不明となったという。陳情のために村で集めた大金を持っていた。夜に一人で出掛けたまま、翌朝になっても帰らないという。
その後、原渕は、宿のホテル近くで死体で見つかる。金も消えた。殺人ではあるが、金が原因かどうかはわからない。
作家でありながら、探偵としても有名な城之内に、奥平の当主は、村に帰った村長らの相談相手になってもらいたいと、依頼する。こうして、城之内探偵の推理が始まることになる。同行するのは編集者の沢口と、奥平のお嬢様真優。

村では合併したもとの二つの村、清宮地区と田上地区が、駅をどちらに作るかで対立していた。殺された原渕は田上地区の住人なのに、清宮地区の駅に賛同していた。名古屋の不動産屋だという、折本が、観光事業の賛助金を集めに来ているが、やくざのような男たちを引き連れている。
田上地区の有力者大乃木が事故に遭ったり、両地区が対立し暴動になりそうになったり、その首謀者だった折本が行方不明になったあとで、事故死したり。
国鉄の調査をかたくなに拒否する孤立する村民片田。城之内ら一行が滞在した、もと奥平家の執事だった清宮地区の有力者武澤家は貧窮し、使い道のない裏山を折本に密かに売ろうとしていた。
城之内は独自の推理で、騒動の影にあるものを推理し、顔の広い奥平家の当主により、事件の背後にある政治的な背景を調べてもらうことで全容の解明を果たす。
事件当時計画されていた路線は、清田村が期待する恵那線が破れ、折本らが画策していた中津川線に決まりかけていたものの、それも結局実行されることなく、国鉄が分割民営化され、地方路線はお荷物になってしまう。
当時には死活問題だったものも時がたてば一夜の夢となる。地味な事件の深いドラマ。