新宿花園神社裏にある交番に勤務する巡査坂下のとある冬から翌年の秋までを描いた警察小説。花園裏交番は、新宿ゴールデン街や区役所通りが近いため、酒がらみのトラブルが多い。そのためにここには6人から8人の警官が交代で配備されている。
クリスマスイブのその夜、サンタクロースの衣装を着た大柄な男がふらふら歩いてきて、交番を過ぎてから倒れた。酔っぱらいかと思い、ふたりがかりで交番内に引き入れ、掃除中の新人の坂下も手伝って、奥の休憩室にまで引き入れてから、頭部に血が出ているのに気づいた。東部を殴られた様子。応急処置をしながら救急車を要請。
そこへ一人で警ら中に女の喧嘩に出くわした警官からの応援要請があり、坂下が向かう。
水商売の女二人が男のことでもめて掴み合いの喧嘩をしていた。二人を引き離し、落ち着かせて話を聞くと、年配女性の部屋から溜め込んだ大金が金庫から盗まれ、昔同棲していた男を疑い、その男と親しい同僚の女性と喧嘩になったらしい。ともかく現場確認と、坂下は女のアパートの部屋を見分、盗まれたのが千三百万円近くの大金と知り、本書に連絡する。容疑者は彦根沢という男。そこへ通信指令室からの連絡があり、彦根沢が殺されたときいた坂下は、盗みにあった早苗をつれて、現場へ向かう。現場で見つかった犯歴のある指紋の持ち主はやくざの鶴田。彼なら知っているという早苗。頼んで、彦根沢を探してもらったという。現場の捜査員に任せて帰る坂下。
その途中また見かけた、西沖という男。新宿に来て、これで二度目。故郷信州の坂下の高校の教員で野球部の監督だった男。部員だった彼には忘れられない男だったが、十年後の今、西沖はやくざの幹部になっていた。
交番に戻ると、太ったサンタの知人が来ていた。養護施設の園長だったらしい。ATMで金を引き出したところを目撃され、あとをつけた若者に襲われたと後にわかる。襲撃が防犯カメラに写っていた。
大金を盗まれた早苗の様子を見に行った坂下は、西沖を見かけ、監督と呼び掛ける。監督は窃盗事件を調べるなら、3年前に自殺した3階の住人の女を調べるように言って去る。
調べてみると、ストーカー被害の上に、リベンジポルノをネットに公開されて自殺したことがわかる。しかし、部屋で写された動画はストーカーの男の仕業ではないことが判明し、アパートの部屋に隠しビデオがついていたことがわかり、犯人は隣にすむ大家と甥だと判明し、逮捕される。
春になり坂下はビッグママと呼ばれるシングルマザーの女性警部補しのぶと知り合う。彼女も新人の頃に、裏花園交番に勤務していたという。
警ら中の坂下は日中のラブホテル街で少年を見かけ保護する。ゴールデン街で店を持つ祖父を訪ねてきたというので、案内すると、祖父の店はこの1週間閉まっているという。祖父の自宅を訪ねると、そこで張り込み中のビッグママに出くわす。奥多摩の山中で見つかった遺体の男が、少年の祖父福住と会っていたことから、探していた。
こうして坂下は少年をめぐる人々が関係する事件に巻き込まれていく。そしてここでも今はやくざの監督と出会うことになる。これが春の事件。
夏になると、別の大事件に巻き込まれる坂下。監督の西沖の舎弟分の平出が、静岡で腹部を刺され重傷となる。新宿で犬猿の仲の西沖の組と別の組双方が、静岡にある老舗の精密機械メーカーの経営権争いに介入しているらしい。今回も家族関係が絡んだ複雑な様相の事件に巻き込まれる坂下。
単なる交番巡査の日常を描いたものではなく、交番巡査が日常の勤務で関わったことが端緒となった大事件が描かれていく。なかなか読みごたえがあり、面白かった。しかし、監督がどんなわけでやくざになったのか知りたいが、続編はないのかな?