はじめての作家さんだが、名前だけは図書館の本棚で見かけている。タイトルに引かれて読もうとしたこともあるが、結局これがはじめて。
藤谷さんは下北沢で書店を開いていたことがあるという。語り手のオサムのいわばモデル。そのオサムが昔店の常連だった女性から譲り受けた自転車に乗っていて、警官から職質を受ける場面から話は始まる。盗難車かどうかを調べるための職質だが、登録を書き換えていないオサム。しかももとの持ち主の名前が出てこなくて焦る。どうにかくみちゃんとだけ思い出して、難を逃れる。
そして思い出す、くみちゃんのことや、当時の思い出を。

独創的な書店を開いたものの、客が来ず、暇をもて余したオサムは、読書会を開くことを思い付く。そうして何人かが訪れるようになり、常連となる。久美子はその一人で、やがて21才の若さで結婚。わずか1年足らずで交通事故により夫を失う。そして、夫の家族にも可愛がられていた久美子は、思い出のつまった地元にいるのが耐えられなくなり、夫の実家のある奈良へ移住。
そのご連絡もなかったのに、10年後、ある日、ひょっこり訪れた。しかも同じ読書会の常連だった由良をつれて。息子をなくした上、商売もうまくいかなかった夫の実家だったが、明るい性格の久美子のお陰で、新しい商売を始め、生き甲斐のある生活ができるようになっていた。そして今さらのように、長く久美子を縛りつけていたことを反省するようになっていた。そんな折りに、観光旅行で奈良を訪れていた由良と再会した久美子は着替えの必要な状態になった由良を、夫の実家に誘う。それが奇縁となって、久美子は勤め先を紹介され、東京に戻ることになった。
やがて、外回りで、下請け会社の在庫数の点検の仕事を始めた久美子は、ある会社で年下の青年と知り合う。37才と30才。
オサムの書店では読書会の他に、将棋の集まりも開いていた。その将棋で話を交わすようになった久美子さんと優樹は恋仲となる。結婚を決意した久美子に父親が反対を唱える。訳を聞くと、興信所に優樹の身元を調べさせたと言う。育児放棄により乳幼児から施設で育った優樹。しかも今も健在な父親は大変な男で、こんな係累ができるのは困ると。
それでも別れられない二人。久美子は仕事をやめて行方知れずとなるが、のちに優樹のアパートで同棲してるのがわかる。
そんなどっち付かずの二人を幸福にすべく、オサムや常連たちが動き出す。優樹の父親を久美子の父親に会わせて、一気に結婚させようとする。
結局、瓢箪から駒が出て、二人は両家に、さらに亡き夫の両親にまで祝福されて、結婚する。
ラストには優樹の出生の秘密が、父親の立場から描かれる。
一見二人の結びの神ともいえる由良だが、実は底意地の悪い心も持っていたことが、オサムに預けた日記帳ともいえる手帳にかかれている。そんな話も挟まれる。

最初は退屈しそうな気がしたが、いつか引き込まれて最後まで一気に読んでしまう。なかなか読みごたえがある話だった。誰もが欠点はある不完全な存在だが、懸命に生きてきた、生きていることを実感させられる話だった。