宇治の茶園ではたらく両親のもとで生まれた仁吉は幼い頃から、将軍家へ運ばれる宇治茶のお茶壺道中を見物するのが何より楽しみだった。
そんな仁吉が江戸の葉茶屋に奉公し、幕末を生き抜く葉茶商人として大成するまでを描いた物語。
茶葉の目利きとうまい茶を入れる技に秀でていたために、葉茶屋森山園の主に目をかけられる。宇治の控え茶師の甥が江戸で森川屋という葉茶屋を開いた。その後三代を経て、暖簾分けされたのが森山園だった。森川屋は本家に当たる。江戸に連れてこられた当初、実は本家の主も仁吉を引き取りたいと思っていたらしい。それだけ仁吉は目を引く存在だった。
ただ、主の息子夫婦が急死し、店をついだ孫娘が、勝手に婿を選んだことから、祖父と孫娘は何かと対立し、祖父に可愛がられた仁吉は、若い主夫婦とはうまくいかなかった。
祖父の碁の相手でもある客の旗本阿部家に出入りするようになって、仁吉は転機を迎える。
奥方のそばに使える女性と顔見知りになるが、それが後に妻女となる。旗本阿部は奥州白河藩の縁戚でもあり、神奈川奉行、外国奉行を歴任した殿様はその後、白河藩主にもなる。そして、幕府内でも役を勤めて、ついには老中にもなる。
そのおかげで、何かと目をかけられ、危機の時に助けを得た。
病死した主には妾に生ませた息子があり、祖父が密かに養育していた。跡を継いだ娘がそれを認めなかったことも、祖父との確執の一因だった。
やがて、祖父は遺言で、密かに育てていた孫を新たに作る横浜店の主にし、その補佐に仁吉を指名する。
外国人に開かれた港横浜、そこに滞在し世間を見聞きした仁吉は、将来の店のあり方について考えるようになる。
宇治茶の存続と店を潰さないために何をなすか?
娘を生み、遊び人の婿を追い出したあ女主は、ついには店を仁吉に任せ、店を出ていく。阿部家に奉公していた女と所帯をもち、森山園を引き継いだ仁吉。
幕末を生き抜いた葉茶商人の生きざまが描かれた話で、なかなか面白かった。
最後の場面で、維新から20年後、互いに生き延びた仁吉と阿部の殿様が茶を喫する場面が描かれていて、何かホッとする。