不思議だが読後ほっとさせる物語。
三十路の女性青山伊津子と十代の少女小林美羽は、度重なる不幸から逃れようと自殺を試みる。そんな二人が出会ったのは過去を忘れたものばかりが集まる、とあるデパートの屋上にある遊園地。彼らは管理人から与えられる簡単な軽作業をしながら、そこに住んでいた。アイスクリームを売る伊津子、牛乳瓶の蓋を集めては、それで花を作る美羽。自分の名前さえ思い出さず、それゆえに落ち着いた平穏な暮らしをしていた彼女たち。
屋上の遊園地での様子と平行して描かれる二人の女性の生い立ちと度重なる不幸な暮らし。
幼い頃に両親を失い、叔父に引き取られた伊津子だったが、ある日狂暴になった叔父に襲われ、家出。亡き母方の祖母を東北まで訪ねて、平穏な暮らしを得る。叔父に勧められて始めた絵描き。その才能に気づいた担任の先生の紹介で、年老いた画家の教室に通うになり、目覚めていく。美大に進学し、評論家として知られた小林に認められ、画家としてデビュー。そしていつか、二人は男女関係になる。
美羽はその小林の娘だった。最初の娘を病でなくした妻が、強制的に生んだ娘。ところが生まれつき、アトピーがひどかった美羽は、母親を苛立たせ、何かと死んでしまった姉に引き比べられ、身の置き所のなかった美羽。学校でもいじめられ、ついに学校へいかなくなってしまう。父親が持っていた画集が気に入り、そこに描かれた鳥かごのとまり木にいる妖精を気に入っていた美羽。
父親と伊津子の関係が妻にわかり、母親は美羽をつれて別居。仕事に邁進する母に置き去りにされていく美羽。父親に会うことさえ叱られ、発作的にマンションから飛び降りた美羽。
娘の自殺未遂と妻の落胆により、別れを告げられた伊津子もまた首吊り自殺を発作的にする。
穏やかで平和な屋上遊園地で幸せだった美羽はある日、気づいてしまう。管理人を問い詰めて、住民が心の平安を取り戻すために首に下げていたペンダントをはずして、記憶を取り戻した美羽。仲良しだった伊津子が両親を仲たがいさせた女性だと知り驚く。
同じようにペンダントをはずして、記憶を取り戻した伊津子。きれいな遊園地だと思っていたが、実際はまるで地獄のような様子。管理人を問い詰めると、この遊園地は死のうとした人間が一時的にとどまる場所だと言う。そして、いずれは元の世界に戻るか、ここにとどまるかを決めなくてはならないと言う。遊園地で一緒にいるものは、現世で関係のあった者たちだと聞いた伊津子は彼らを思い出す。現世に戻ることに躊躇していた伊津子を誘いに来たのは美羽だった。
母が非難していた父親の愛人が伊津子と知り驚いた美羽だが、長年愛着していた絵の画家も伊津子だと知った美羽は、一緒に元の世界へ戻ることを決めた。
現世へ戻るために乗った列車は、幼い頃祖母のもとで知った宮沢賢治の銀河鉄道のようだった。
現世へ戻ったとき、屋上遊園地での記憶は失われる。
画家として復活した伊津子の個展に、父に勧められて見学にいった美羽。互いになぜか引き合うものを感じる二人。