いつ読んでも読後ほっこりする物語の紡ぎ手、そんな印象の森沢さん。
ひとつの家族にヒビが入り、壊れそうになった危機が、無事に終息するまでの顛末を描いた作品。
産業雑誌の編集員を勤める父、理系女子で大手の企業の研究員をしていた母、そしておとなしいが頭のいい、かわいい娘の三人家族。
その家族の平和がある日変わる。人気男子に声をかけられたことがきっかけで、中学2年の娘、春香はいじめを受けるようになり、転ばされて顔に傷を受けたことを機に、不登校となる、部屋に閉じ籠るが、仲良しの父とは口を利いていた春香。一方、娘ができてから育児のために専業主婦となった杏子。その杏子の様子がおかしくなった。
やがて、その原因が霊能者紫音の影響だとわかる。しかも、娘をつれて相談に行くようになり、不安を感じる夫淳。取材で度々家を空ける彼にはすぐにはどうしてよいかわからない。
団地の部屋の窓から見える川で、いつも一人釣りをしている老人。気になっていた老人に声をかけ親しくなる。もと心理学の大学教授で、妻の死後、同居をすすめる娘夫婦につれなくしたことで、一人孤独に暮らす老人。
そんな老人に、妻の洗脳状態回復の知恵を求めると、妻に自分のしていることに気づかせ、考えさせるといいと言われたものの、どんな風に言葉をかけていいかわからない淳。
直後、その老人に会い、相談を持ちかける春香。
一方、霊能者を名乗る紫音は、実は老いた母を介護する千恵子で、彼女も昔いじめを苦に自殺を仕掛けたことがあった。自分を守ってくれた母が介護を必要になったときに、そのために始めた商売だった。
春香まで妻に同調し、洗脳されたと危機を感じた淳は、ついに妻と口喧嘩をしてしまう。それを案じて、春香は両親をつれて、紫音に面会にいく。
ここで春香は思いがけない言葉を発する。
紫音の霊能力のネタばらしだった。
実は、春香は心理学教授だった老人のアドバイスで、コールドリーディングについて勉強し、紫音の言葉の神がかりな的中率の秘密を、次々とネタばらししていく。
半信半疑だった杏子も、紫音が認めたことで、憤りを感じて食って掛かるが。
そんな杏子を説得したのも春香だった。騙されたものの、自分も家族も良くなったのではないか?紫音にも、そんな商売をする理由があったのではないかと、彼女に説明させる。それを聞いて納得した杏子。
紫音は、姿を消し、春香の家族はもとに戻る。そして川縁で一人釣りをしていた老人の傍らには、足の不自由な孫娘が連れ添っていた。