美術探偵神永美有シリーズの短編集。
探偵役は美術コンサルタントである神永。彼は美術品の真贋を舌で見極めるという特別な才能を持つ。本物に接すると甘味を舌に感じ、偽物だと苦味を覚える。その才能から広い分野の人々から依頼を受けている天才コンサルタント。
そしてワトソン役とも言える語り手が、京都の大学で造形学部の准教授を勤める佐々木。専攻はイタリア美術だが、神永と行を共にすることが多く、彼自身も専門外の美術品や文化財の真贋を鑑定する仕事が舞い込む。
そして、脇役として登場するのが、佐々木の教え子で芸術家となったイヴォンヌこと、高野さくら。毒舌家で、佐々木の足を引っ張るような行動をする。徳島の生まれで、双子の姉は家業のうどん屋で働いていて、とある事件で知り合った佐々木に思いを寄せている。
佐々木はその気持ちには無頓着で、かえって、一番年若い教え子である里中琴乃に思いを寄せているが、琴乃自身も佐々木の思いには鈍感であるとわかる。
札幌の美術館で学芸員を勤める琴乃。彼女の生家に伝わるサーベルにまつわる伝来の秘密に頭を悩ませる最初の一編から始まる6編の短編集。
専門外の日本史の歴史的人物にまつわる芸術品や文化財にまつわる謎解きでなる。
最初の編では、函館の五稜郭の戦いで戦死した先祖が、明治になってから、榎本武揚から頂いた流星刀という隕石から作られたという伝来のサーベルの真贋がテーマ。
第2編では、佐々木の勤める大学の新学部建設予定地から出土した銀印が問題となる。
第3編では、琴乃が買い付けたタペストリーの年代鑑定。カエサルが北極星になぞらえて描かれた絵。
第4編ではアンティクショップで佐々木が買わされてしまった4分の1サイズのSLの真贋が問題となる。幕末来日したペリー艦長が将軍に献上したという由来を持つもの。
第5編では、佐々木が思いを寄せる教え子の琴乃から結婚披露の招待をうける。姑の家に伝わる絵。伊達正宗により欧州に派遣された支倉常長が持ち帰った法王パウルス五世が描かれた絵。琴乃はそれが絵ではなくタペストリーだと主張し、それだと年代がおかしいから偽物だと主張。佐々木が真贋を判定することになる。さらに、京都の寺に伝わる紫衣の真贋が絡まる。
最後の第6編は神永が未だ二十歳の頃、バイトしていた骨董屋で出会った絵の真贋が問題となる。一見神社の七五三だと思われた絵だが、秋に咲く桜とか不審な点が発見され、問題となる。美術専門の古本屋の息子だった神永が美術品の魅力にとらわれ、真贋鑑定を始めるきっかけになった顛末が描かれる。
なかなか面白いが、正直、犯罪に比べて、現実感が薄い気がして、いまいち夢中になれない感じもした。美術や歴史上の隠されたものが明らかにされるという、好奇心を刺激される面はあるが。