ミステリー作家、鏑木蓮さんがデビュー10周年を記念して編まれた、初の短編集。
デビュー2年前の作品から並ぶ10作は、主人公も舞台も違う作品が並んでいる。
なかには、長編で主人公になった刑事が主人公の作品もある。
私は鏑木作を2、3作しか読んでないが、見覚えのある女刑事もいた。
カバー裏の解説では、鏑木さんは、純文学ミステリーの旗手と呼ばれている。
また巻末には精神科医の名越さんによるこの短編集の解説がついている。そのなかで、鏑木作品の全体の特徴として、3点が挙げられている。
第一に、作品はどれも浄瑠璃的世界観に彩られている。犯人にも探偵にも強者はおらず、誰もが葛藤を抱え、傷つき、執着を捨てきれない弱者ばかり。だから彼らが関わる犯罪にも人間的な業や宿命がまとわりついている。だから事件は解決しても、後味の悪い思いが残る。浄瑠璃を見たあとと同じ思いだと。
第二に、犯人たちの動機はそれぞれの抱えた感情的なものが動機になっている。しかし、それらのために犯罪をおかすには、一線を越えるには、何らかの心の変容、魔が差す瞬間があった。しかしそれを明らかにすることはわからないと。本来ならミステリーだと、最後に犯人がわかり、その動機も明らかにされて、すっきりし、面白い。しかし現実の事件だと、そうはっきりと動機を指摘することは難しい。動機と犯罪の間にある魔の瞬間を明らかにすることは難しい。その点を鏑木作品は、現実に引き寄せて描く。だから後味の悪い読後感を残す。とともに、読むものにリアリティを感じさせる。
第三に鏑木作品では、女性の描き方がうまい。女性の目線で女性の心理が描かれている。女性の立ち位置やニュアンスを見事に体現した女性が登場する。女性の周年や見切りの仕方、残酷さ、鬱積した悲しみというような感情が見事に表現されている。
この解説を読んで、なるほど鏑木さんはそんな作家なのかとわかったが、ではもっと読みたいかと言われたら、否定的かな。読んでスッキリしたい、感動したいのが私の読書の目的だから。でも、京都祇園生まれの女性刑事には興味があり、もう一つくらいは読んでみたいと思う。