菊子は山形出身、農家の四姉妹の末っ子だが姉に比べて、容貌はあまりよくなく、目立たない存在だった。山の奥に住む祖母に可愛がられ、学校帰りによく行っていた。祖母は菊子が聞き上手だと誉め、自分の話を聞かせては、気分がよくなったと誉めてくれた。中学を出ると、祖母の家に住み込み、高校にも通った。以後十数年祖母のもとに暮らしたが、祖母に世間に出て、多くの人の話を聞き、幸せにしてやれと言われて、仙台で就職。地味で単調な仕事だったが幸せだった。話を聞いてやったことが縁で、友達もできた。そんなときに襲った大震災。友の行方はわからなくなり、避難所で多くの人の悩みや嘆きを聞くことになる。そして聞くばかりで、何もしてやれない自分のふがいなさから、聞くことに耐えられなくなり、衝動的に東京へ向かう。東京には物が溢れ、経済的に困る生活はないと思っていた。
しかし、東京にも彼女に話をしたがる人たちが多くいて、それが妨げになって、次々と職場を変えていた。
そんな彼女の特技と言える聞き上手に目を付けたのが、零細出版社の社長戸部。もとは大阪の出版社に勤めていたが、読者を幸せにする良書を作ることを目標にしていた彼は、売り上げのためにつまらない本を出すようになった会社をやめ、東京に出て会社を立ち上げた。昔、彼が編集した児童文学に感銘したことがある青年桐谷が社員となったものの、二人だけの零細出版社では、目標の本など出せない。知り合いからの頼まれ仕事で切り盛りしていた。青年は東大出ながら、童話にどっぷりはまってるオタクぽい男。父親は国際線のパイロットで、ほとんど帰宅しないため、母子家庭に近い。
菊子を臨時の社員とした戸部は、怪しげな企画をたてる。やくざ相手の求人情報紙を作ろうという。そにために、手近にある、表向きには工務店を営んでいるやくざのもとに、菊子をインタビュアーとして、単身で向かわせる。話を聞き、録音するだけの仕事。
ところが見かけによらず、料理好きな組長は菊子相手に料理の話ばかり延々と話す。それがまずかったのか、帰りの菊子は組の若いものに追われ、どうにか逃れた。さらに、事務所が荒らされ、パソコンが盗まれる。組の仕業と思った戸部。組には後ろ暗いことでもあるのではないかと、邪推した戸部は、インタビューの中で組長がもらしたニンジン畑に目を付ける。薬物でも埋めているのではないかと。桐谷をつれて、深夜ニンジン畑を掘り起こした戸部は人骨を発見。警察が調べてみると、さらに人骨が見つかる。どうやら死体の始末屋をしていたらしい。
やくざの影の秘密を暴くきっかけになったことで、自慢していいはずの菊子が逆に落ち込んでいた。住んでいたアパートが放火殺人に遭い、部屋が使えなくなった菊子は、戸部の薦めで、桐谷の実家に間借りしていた。おしゃべり好きの桐谷の母は、亡き娘の部屋を使わせるほど、菊子を気に入った様子。菊子も彼女といると心が休まった。
菊子はとある公園の自動販売機で一人の盲人の青年と知り合い、互いに好感を抱いていた。しかし、その青年はやくざの組長の実弟だった。兄の裏の顔を知らず、優しい兄として慕っていた。そんな彼に兄の裏稼業を暴き、悲しませる結果になったのを、菊子は気にして落ち込んでいた。
そしてある日、菊子は失踪する。やくざの特集記事を出すことで俄然忙しくなった戸部と桐谷。いなくなって、彼女の存在の重さに気づいた二人は、菊子の故郷に探しにいくことにする。
そして再会した三人。施設に入ったと思い込んでいた祖母が、実はまだまだ元気で、菊子を社会に出すために仮病を使ったと知らされた菊子。聞き上手な特技なんて、祖母がそう思い込ませただけだと聞かされた菊子。菊子の特技は人を信じること。信じる人には誰でも心を開くものだと聞いた菊子は、会社に戻ることを決意する。そして再会した戸部と桐谷。
インタビュアーとして知られるようになった菊子。